time goes by

□第三章
1ページ/10ページ

 季節の移り変わりとともに、人の心もまた変わっていくのだろうか。
 変わっていくことを、人は悲しいと思うのだろうか。それとも変わっていくことは救いでもあるのだろうか。
 私にはまだ何ひとつ分からない。
 分からないまま、何も選べないまま、それでも私の周りで大きな変化が訪れようとしていた。
 薫さんと最後に会った日から数か月後、私の両親は正式に離婚することを決めた。
 「ごめんな、千裕」
 辛そうな顔で謝るお父さんに、私は何も言えずただ首を振るだけだった。
 今日までずっと「お父さん」と呼んだ人なのに、明日からは何の関係もない赤の他人になるんだ。おそらくこれから先この人と会うことはもうないだろう。それがとても不思議だった。
 私はまた母の姓を名乗ることになり、十年以上暮らした海辺の町を後にした。
 柊ちゃんとの思い出を残したまま。
 そして、薫さんとの約束を守れないまま。

 「桜井さん、言ってたよ。『ありがとう。またいつか逢おうね』って」
 晃一先輩に呼び出された一花が、帰って来るなりそんなことを言った。
 あの海辺の町から私と母が消えた後、玲司さんと晃一先輩が必死になって私を捜してくれたらしいのだ。その気持ちはとても有り難かった。とても嬉しかった。
 でも私は、あの町を去る時にすべてを捨てて来た。
 学校も、友達も、名前も、携帯電話も。あの町には何ひとつ残さなかった。
 だから私のことを捜し出すのは無理だったはずだ。
 それなのに晃一先輩は、別れて以来ずっと音信不通だった一花にまで連絡して、私を捜そうとしてくれた。
 「呼ばれたから行ってくる。桜井さんって人も一緒らしいけど…」
 どうするの?
 そう一花に訊かれて、私はただ首を横に振った。
 「本当にいいのね?」
 「うん。二人には何も言わないで」
 ごめんね。一花にまで迷惑かけて。
 その言葉をかろうじて飲み込んだ。
 前に同じことを言った時、一花がひどく怒ったからだ。
 「せめて何か伝言は?」
 「ないよ」
 「あ、そ」
 一花は少し不機嫌になりながら出かけて行った。
 そして、少し不機嫌なまま帰ってきた。

次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ