time goes by
□第三章
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季節の移り変わりとともに、人の心もまた変わっていくのだろうか。
変わっていくことを、人は悲しいと思うのだろうか。それとも変わっていくことは救いでもあるのだろうか。
私にはまだ何ひとつ分からない。
分からないまま、何も選べないまま、それでも私の周りで大きな変化が訪れようとしていた。
薫さんと最後に会った日から数か月後、私の両親は正式に離婚することを決めた。
「ごめんな、千裕」
辛そうな顔で謝るお父さんに、私は何も言えずただ首を振るだけだった。
今日までずっと「お父さん」と呼んだ人なのに、明日からは何の関係もない赤の他人になるんだ。おそらくこれから先この人と会うことはもうないだろう。それがとても不思議だった。
私はまた母の姓を名乗ることになり、十年以上暮らした海辺の町を後にした。
柊ちゃんとの思い出を残したまま。
そして、薫さんとの約束を守れないまま。
「桜井さん、言ってたよ。『ありがとう。またいつか逢おうね』って」
晃一先輩に呼び出された一花が、帰って来るなりそんなことを言った。
あの海辺の町から私と母が消えた後、玲司さんと晃一先輩が必死になって私を捜してくれたらしいのだ。その気持ちはとても有り難かった。とても嬉しかった。
でも私は、あの町を去る時にすべてを捨てて来た。
学校も、友達も、名前も、携帯電話も。あの町には何ひとつ残さなかった。
だから私のことを捜し出すのは無理だったはずだ。
それなのに晃一先輩は、別れて以来ずっと音信不通だった一花にまで連絡して、私を捜そうとしてくれた。
「呼ばれたから行ってくる。桜井さんって人も一緒らしいけど…」
どうするの?
そう一花に訊かれて、私はただ首を横に振った。
「本当にいいのね?」
「うん。二人には何も言わないで」
ごめんね。一花にまで迷惑かけて。
その言葉をかろうじて飲み込んだ。
前に同じことを言った時、一花がひどく怒ったからだ。
「せめて何か伝言は?」
「ないよ」
「あ、そ」
一花は少し不機嫌になりながら出かけて行った。
そして、少し不機嫌なまま帰ってきた。