First Love

□第二話・海の見える丘
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 「やっぱ海があるのに泳がないってのはないでしょ」
 晃一に促されて、薫はしぶしぶ車に乗った。別に海水浴になんか行きたくはなかったが、世話になっている手前、晃一に付き合えと言われれば断れないのが人情だろう。
 乗り気でない薫のせいで出発が遅れたためか、すっかり大渋滞に巻き込まれてしまった。みな海に向かう車で海岸へと続く道路はまるでアリの行列のようだ。
 「少しは動けっつーの」
 運転席でイライラしながら煙草を咥えている晃一の愚痴を聞きながら、薫は何とはなしに窓の外を眺めた。
 海沿いの道路は海水浴客で溢れかえって、どこを見ても楽しそうな顔の人、人、人……。それだけでもうんざりする。そのうえ明らかにナンパ目的のチャラチャラした男たちと、彼らに声をかけられてまんざらでもなさそうな女の子たち。
 「くだらねぇ」
 思わず小声に出してそうつぶやいた時だった。
 (あれ?)
 海水浴場から少し離れた坂道を、場違いにきっちりとした服装で歩いている高岡千裕の姿が見えた。

 紺地に白い水玉のワンピースと、足元は白いローファー。肩から下げた小さめのショルダーバッグを律儀に手で押さえながら、黙々と坂を上っていく。
 (どう見ても泳ぎに来たんじゃないよな)
 知らず知らずのうちに薫は千裕の姿を追っている。そんな薫に気がついて、晃一も薫の視線の先に千裕を見つけた。
 「あれ、高岡じゃん。おおーい!」
 「ばっ…!やめろよ」
 薫が止めるのもきかず、晃一はクラクションを鳴らして千裕に呼びかける
 千裕は不審そうな顔で振り返ると、手を振る晃一を見つけて一瞬だけ迷惑そうな顔をした。だがすぐにいかにも礼儀正しい笑顔を作ると、その場で軽く頭を下げる。そしてそのまま立ち去ろうとする。
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