First Love
□第三話・気持ちが見えない
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海が見えるレストラン。その窓際の一番よく海が見渡せる席に座って、薫と晃一と千裕の三人は静かにお茶を飲んでいた。
「中は涼しくていいねぇ。外はめちゃくちゃ暑い」
「それは当たり前ですよ。夏なんですから」
突っ込みともボケともつかない千裕の言葉に、晃一は人懐こい笑顔を浮かべる。
「そりゃそうだね。…で、高岡はどうしてこんな所に一人でいるわけ?」
いきなり核心をつく晃一に、千裕は思わず苦笑いした。
「海を見に来たんです」
笑いながら答える。
「見るだけ?泳がないの?」
「ええ」
「なんで?」
「泳ぐために来たのではないので」
「ふうん。じゃ、なんで海を見に来たの?」
「見たかったからですよ」
「ええ?ただそれだけ?」
「はい。ただそれだけです」
晃一と千裕の会話を聞いて、薫は心の中でつぶやいた。
(不毛だ)
二人とも、こんな意味のない会話を、よく真面目な顔で出来ると呆れる。いや、晃一は別として、千裕がよく怒り出さないものだと薫は感心してしまう。
すると、
「あっ!」
いきなり晃一が声を上げた。それからにやにやといやらしく口の端を上げた。
「もしかして、デート?」
からかうように千裕を伺うと、千裕の顔に一瞬だけ淡い影がよぎる。だが千裕はすぐにそれをかき消すと、にっこりと晃一に笑いかけた。
「そうです。だから邪魔しないでくださいね」