First Love
□第四話・心の声
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そのまま千裕と顔を合わせる機会もなく二週間ほどが過ぎた。
薫は連日のように晃一のナンパに付き合わされて海に借り出され、見知らぬ土地にたくさんの女友達ができてしまった。
「いやぁ、さすが薫大明神。ご利益あるねぇ」
「そりゃ、どうも」
嬉しそうな様子の晃一に、薫は投げやりな返事を返す。
二人の携帯電話は、海で知り合った女の子たちからのお誘いで連日鳴りっぱなしだった。海でも眺めながらゆっくりのんびりと夏を過ごすはずだったのに、これじゃ何しにこんなところまで来たのか分からない。
そう薫がくさり始めた頃だった。
「ただいま」
和樹の元気な声の後に、
「お邪魔します」
凛とした涼やかな声。
「遠慮しないで上がってけよ」
「ここで待ってるから大丈夫」
「まあ、そう言わずにさ。お茶ぐらい飲んでいけば」
玄関先で何やらごちゃごちゃやっている声がする。晃一が様子を見に出て行ったが、すぐに千裕の手を引いて戻ってきた。
「遠慮なんてしないでよ。ほら、薫もいるしさ」
そう言われて、薫と千裕は顔を見合わせる。
「こんにちは」
「どうも」
相変わらずの千裕の慇懃で冷たい声と視線。薫は思わず目をそらした。
晃一は千裕を薫と向かいの席に強引に座らせると、麦茶を取ってくると言って席を外してしまった。和樹も自分の部屋に何かを取りに行ってしまい、室内には薫と千裕だけが残された。
(なんか気まずいな)
女の子と二人きりでいることなど慣れっこのはずなのに、相手が千裕だとどうにも落ち着かない。まるでこちらのことなど何もかも見透かされているような、変な居心地の悪さを感じてしまう。