First Love
□第五話・夕暮れの偶然
1ページ/3ページ
スーパーの中をくまなく探したが、やはり千裕の姿はなかった。薫はスーパーを出ると、さっき戻ってきた道をもう一度歩き始めた。
そして、
「あ――」
道路からちょっと奥まったところにある公園のベンチ。そこに座っている千裕の姿を見つけた。
声をかけようかどうか一瞬迷ったが、薫は黙って千裕に近づいた。
千裕はそんな薫に気付かず、さっと立ち上がると公園の奥のほうへ歩き出した。仕方がないので、薫もその後に続く。
公園はそこだけで終わりではなかった。奥のほうに小さな抜け道のようなものがあって、枕木で簡単につくられた階段がずっと下のほうまで続いている。
不安定な足元を気にかけながら、千裕はゆっくりとその階段を下りていく。そして、階段の中ほどで立ち止まると、眼下に広がる景色を一望した。
薫は階段のてっぺんから、そんな千裕を見つめている。
長い急な階段の途中に佇み、感慨深そうに辺りを眺めている千裕。その横顔はとても静かで、千裕が今何を考えているのか、どんな気持ちでこの景色を眺めているのかまったく想像もつかない。
けれど目を凝らしてみると、千裕の頬に何か光るものがあった。
(涙――?)
その涙に、薫は軽い衝撃を受けた。
女の子が泣くのを見るのは初めてじゃない。正直に言えば、見飽きている。
激情をむき出しにして、怒ったりすがったりして泣く女の子たち。薫がいつも見ているのはそんな感情的な泣き顔だった。
しかし今薫が見ている涙は、とてもとても静かな涙。気持ちが昂ぶって泣いているというのではなく、ただひっそりと静かに、でも深く悲しい涙だった。
なぜか薫にはそんなふうに感じられた。