First Love
□第七話・心の在りか
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「桜井さん」
薫をまっすぐに見つめながら、千裕がゆっくりと口を開いた。
薫は無言で千裕を見つめる。
なんだ。やっぱり俺だと気付いてたんじゃないか。それなのに、さっきは何で無視したんだ。
ついそんな責めるような気持ちで千裕を見てしまう。
しかし千裕はそんなことは露知らず、ただ真っ白にほほ笑んだ。
「あけましておめでとうございます」
薫は呆気にとられた。
そして次の瞬間、言いようもなく可笑しくなった。
「ぶっ…!」
つい吹き出した薫に、
「桜井さん?」
千裕はきょとんとした顔をしている。薫はこらえきれずにくすくす笑い出すと、千裕の肩をつかんでカウンターの端へ寄った。
「い、いきなり、なんでその挨拶なわけ?」
笑いながら尋ねる薫に、千裕はいたって真面目にこたえる。
「今年になってから桜井さんに会うの初めてですし、まだ一月ですから。遅ればせながら新年のご挨拶を、と」
そう言いつつ丁寧に頭を下げる。
薫はそんな千裕をまじまじと見つめ、腹を抱えて大笑いしたい衝動に駆られた。
本当に、この子ときたら―――。
いつもいつも見事に予想を裏切ってくれる。つくづく変わってる、面白い子だ。
不思議そうに薫を見つめている千裕に、薫はにっこりと笑いかけた。
「ご丁寧にどうも。あけましておめでとう。今年もよろしくね」
「はい。今年もよろしくお願いします」
千裕はまたしても丁重に頭を下げる。