First Love
□第八話・友達という関係
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あれ以来、ごくたまにだったが薫は千裕とメールしたり電話で話すようになった。
たいがいメールを送るのも電話するのも薫のほうからで、話の内容もほとんどが薫のことだった。千裕はいつも受け身というか、決して積極的に連絡してきたり自分のことを話そうとはしなかった。
けれど薫と話すのが嫌だとか迷惑だとかいう感じはなく、いつもそれなりに会話は弾みそれなりに楽しかった。
「へえ、薫さんのご実家は京都でもかなり老舗のお店なんですね」
「うん、そう。俺はそこの跡取り長男ってわけ」
「それじゃご両親は、早く薫さんに京都へ戻ってきて欲しいでしょうね」
「まあね」
何回か電話をやり取りするうちに、千裕は薫のことを名字ではなく名前で呼ぶようになっていた。
それは千裕のポリシーみたいなもので、「家族全員を指すファミリーネームよりも、個人のためにつけられた名前を呼ぶほうが好きです」というのだった。
本当は薫も千裕のことを名前で呼びたかったのだが、なんだか照れくさくていまだに呼べないでいる。薫が「高岡さん」と呼ぶたびに「下の名前でどうぞ」と言われるのだが、そう言われると余計に恥ずかしくなってますます呼べなくなってしまう。
「俺としては、弟のほうがよっぽど商売に向いてると思うんだけどね」
「弟さん…光(ひかる)さんでしたっけ?確か私と同い年の」
「うん、そう。よく覚えているね」
感心したように薫が言うと、受話器の向こうで千裕が小さく笑う。
「だって『薫』に『光』なんて、源氏物語そのものの綺麗な名前なんですもん。一度聞いたら忘れませんよ」
「そうだね」
千裕の笑い声につられるように薫も笑った。
綺麗な名前。実を言えば、それは子供の頃からのコンプレックスだった。自分も弟も、名前と顔のことを言われるのはあまり好きではない。
けれど千裕に言われると素直に聞き入れられる。
どうしてだろう。