First Love

□第九話・待ち合わせ
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 千裕との待ち合わせの当日、薫は数時間も早く家を出た。
 いよいよ明日は久しぶりに千裕に会える。そう思うと、前の晩はなかなか眠れなかった。にもかかわらず今朝は目覚まし時計よりも早く目が覚めて、そんな自分に我ながら呆れてしまう。
 (まるで子供(ガキ)みたいだな、俺)
 小学生時代の記念すべき初デートの時だってこんなに浮き立った気分にはならなかった。そもそも、女の子と二人で会うのが楽しみだなんて、今まで一度も思ったことはないかもしれない。
 (…って言うか、自分からデートに誘ったの、もしかして初めてかな?)
 そんなことを考えながら街を歩く。

 三月とはいえまだ風はだいぶ冷たかったが、デパートのショウウィンドウにはこぞって春の洋服や小物がディスプレイしてある。色も素材もいかにも春らしい柔らかくてふわふわっとした感じ。
 (そう言えば……)
 薫の記憶する限り、千裕はいつもどちらかというと地味な落ち着いた服ばかりを着ていた気がする。デザインもおとなしめでちょっとクラシカルな印象のものが多い。
 それはもちろん千裕にとても似合っていたが、こういう明るいパステルカラーも良く合いそうだ。千裕だったらきっと流行りの可愛いめの洋服もすっきりと大人っぽく着こなすに違いない。
 (何か買ってあげたいな)
 いつの間にか真剣にそんなことを考えていた自分に気がついて、そのことにとても驚き、同時に心底呆れてしまう。
 男友達が、付き合っている彼女に洋服やらバッグやらをプレゼントしているのを見て、いじらしくも馬鹿馬鹿しいと心の中で笑っていたのだが、まさか自分が彼らと同じ罠に落ちるとは思っていなかった。
 (俺、今度からあいつらのこと笑えないなぁ…)
 苦笑しながらそんなことを思う。
 少しだけ男友達の気持ちが理解できて、何となくほほ笑ましいような気持ちになる。
 千裕と出会ってから、薫は自分が少しずつ変わって行くように感じていた。
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