First Love
□最終話・Calling You
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薫はいつの間にか涙を流していた。
驚きとためらいと、そのほかにも様々な感情が混ざって薫の心を翻弄した。けれどそれ以上に、彼女の歌は素晴らしかった。ジェシカの言うとおり、コマツチヒロの歌は本物だった。
曲目は『バードランドの子守唄』から始まって、『summertime』や『fly me to the moon』、それに最近のヒット曲をジャズ風にアレンジしたものもあった。どれも素晴らしかったが、特に最後の『Calling You』は圧巻だった。
後日地元紙に「チヒロ・コマツの『Calling You』はたしかに誰かを呼び続けている。彼女の呼び声は多くの人を虜にするだろう」と絶賛されたくらい情感のこもったものだった。
コンサートが終わって、たくさんの人たちに囲まれている彼女に、薫は遠慮がちに近付いた。
迷う気持ちもあった。正直、今さら何を言ったらいいのかも分からなかった。
だけど―――
一度目の出逢いは、よくありがちな偶然に過ぎなかった。
二度目の出逢いは、運の良い偶然に過ぎなかった。
でも、三度目の出逢いは、奇跡のような偶然だった。
(まさに奇跡だ)
遠く海を隔てた場所で、こんなにも広くこんなにもたくさんの人々が暮らす場所で。偶然に出逢える確率なんて、きっとゼロに等しいに違いない。
それでも二人は出逢った。
それとも、これは偶然なんかじゃなく、何かが薫と彼女を結び付けてくれたのだろうか。
(どっちでもいい)
薫はまっすぐに顔を上げて彼女を見つめる。
そんな薫の視線に気がついたのか、彼女も顔を上げて薫を見た。