痴漢日記〜学生編〜
□No.1小春 奏平
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〈1日目〉
春。何となく皆が浮かれる季節。
初々しいブレザーに身を包んだ、多くのニューフェイスの中で、彼は一際目立っていた。
男にしては小振りな体躯。
アーモンド型の大きな目。
短めのスポーツ刈りが似合う気が強そうな少年だ。
小柄な体躯にすし詰め状態の車内は厳しいのだろう。眉間に皺を寄せながら、懸命に揺れに堪えている。
「イイな…」
口の中でそう呟くと、俺は人込みの間をすり抜け、難無く彼の真後ろへ陣取った。
彼はドアの横にある手摺に捕まっていた。
足元には三山(みやま)高校のロゴが入った大きなバッグ。手摺横には紺色の布に包まれた長い物体が置かれていた…おそらく剣道部に入ったのだろう。
取り敢えず、今日は敵状視察といこうか。
不躾にならないような視線で、俺は彼を観察し続けた。
「……ぁっ…」
ピクンと彼が体を震わせる。
どうやら携帯のバイブらしい。
微かな振動音の後、窮屈な中で彼は胸ポケットから最新機種の薄い折り畳み携帯を取り出した。
これは、好都合。
何か情報を得られるかもしれない。
俺は彼の頭の斜め上から携帯を盗み見た。
「何だよ。母さんじゃん」
相手は母親か。
メール慣れしていないのだろう。絵文字も顔文字もない手紙の文面ねような文章が表示されている。
『奏平、朝ご飯は食べましたか?高校入っていきなりの一人暮らしは大変だと思いますが、しっかり頑張ってね。寮母さんの言う事ちゃんと聞くのよ。お母さんより』
メール内容に苦笑を漏らしながら彼は携帯を閉じた。
返信する気はないらしい。
……奏平…そうへい、か。
取り敢えず、名前が知れただけで良しとするか。
スピードをおとし、ゆっくりと電車が『三山駅』のホームへ入る。
降りる人間が移動してくるのに紛れて、俺は彼、奏平から離れて行った。
それから二駅、新たな獲物を見つけた心地良い充実感に浸りながら、俺は電車に揺られていたのだった。
奏平の、あの気が強そうなキラキラ輝いた瞳が屈辱と快感に染まる様子はさぞ可愛らしいだろう。
「…っと、ダメだな…俺も、まだまだ若い……」
暴走しそうな下半身に苦笑を漏らすと、俺は深く息を吸い込む。
まだ、楽しみは始まったばかりだ。
焦らなくても良い。
流れる景色を見ながら、俺は一人ほくそ笑むのだった。