睦月様の作品(フェイソフィ)
□他は要らない
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[他は要らない]
「…何、コレ?」
目の前に差し出された、異様に黒いモノを見て、蒼い髪の青年、フェイトは問う
。
問われた人物は踏ん反り返りながら答えた。
「見て分かるでしょ?
クッキーよ」
「えっ、チョコじゃなくて!?」
答えに対しフェイトが聞き返すと、彼女―マリアの瞳がぎらりと光る。
「何ですって?」
「い、いや…」
ふぅ、と息を吐き、マリアはフェイトの方へ向き直る。
「良いから、食べてみなさいよ」
「……………戴きます…」
恐る恐る黒い物体を口元に運び、フェイトは覚悟を決めて口の中へ放り投げた。
と。
「あれ…意外に美味しい」
「意外って言葉が引っ掛かるけど…まぁ、良いわ。
食べられるみたいだし」
「…味見してないの?」
「貴方ならズバッと言ってくれると思って。
…あの娘は私に気を遣うから」
あの娘―恐らくは、彼の大本命の、少女。
皿を引こうとするマリアの手を止め、フェイトは言う。
「余るなら食べさせてよ」
「……別に構わないけど」
―カシャン。
「「…!?」」
二人が後ろを振り返ると、タイミング悪く。
大本命の少女、ソフィアが。
「そ、ソフィア…」
「ちょ、ちょっと待って貴女絶対誤解してるでしょ!!」
「…………」
取り繕うとする二人を見れずに下を向いていたソフィアは。
全力でその場を走り去った。
「ソフィア!!
待って、誤解だって!
くっそ、マリ…ってもう消えてるし!」
走りゆくソフィアに声を荒げて言うが止まる訳は無く。
今し方隣に居たマリアは既に居なくなっていた。
「〜あぁ、もうっ!!」
頭を乱暴に掻き毟り、彼はソフィアを追い掛けた。
「リーベル!」
マリアは大事そうに小さな箱を持ち、走りながら青年に呼び掛ける。
「マリアさん!!
ど、どうかしたんですか?」
「はぁ…はぁ…。
…はい、コレ」
「え…?」
小さな箱を差し出すマリアに、リーベルは不思議そうな顔をする。
少しだけ外方を向きながら、彼女は呟く。
「今日は…その……バレンタインでしょ」
「えっ…そ、それじゃあ…!!」
「見た目は悪いけど…」
肩を落とす彼女に慌て、リーベルは言う。
「そ、そんなっ、つつ、作ってくれただけで十分ですよ!
手作りだなんて…お、俺泣きそう…」
目が潤みだす彼に苦笑して、マリアは促す。
「さ、食べて」
「は、はいっ!!」
「…捕まえた!」
ぱし、と手首を掴みそう言うフェイトに、ソフィアはどうにか逃げようとする。
「や、…だっ、放して!」
「嫌だ。
…その手に持ってるの、僕に渡してくれたら考える」
彼女の手に、可愛らしくラッピングされた箱。
それは予想が正しければ、彼のモノ。
フェイトの言葉に、ソフィアはきっ、と顔を向ける。
「マリアさんのがあれば十分じゃない!
…私のなんかっ、要らないでしょ!!」
「……ソフィア、本気で怒るぞ」
「何でフェイトが怒…」
最後まで言い切れずに、ソフィアはフェイトに腕を引かれ、抱き締められる。
すぐに離れようとする彼女を更にきつく抱く。
「僕は本命しか欲しくない。
…分かるだろ?」
「……だって…」
尚も抵抗を続けるソフィアの耳に唇を寄せ、囁く。
「だから…僕に、ソフィアの本命くれない?」
言葉と共に、ソフィアの耳は徐々に赤くなり。
下を向き、怖ず怖ずと箱をフェイトの前に出す。
彼が箱を手にすると、彼女は小さく声を上げた。
「…ずるいよ、フェイトのばかっ」
むぅ、と膨れるソフィアに愛しそうに微笑み、彼は頬に口付けを落とした。
「…マリアのおかげでえらい目に遭ったよ」
「悪かったって言ってるでしょ。
…でも結局、丸く収まってるなら良いじゃないの」
マリアの言葉に、フェイトは不敵な笑みを浮かべ。
「これからが本番だよ」
「あぁそう。
…せいぜい嫌われないようにする事ね」
甘い夜は過ぎていく…。
Fin