小説

□二人の王様・二人の麒麟
1ページ/1ページ

『二人の王様・二人の麒麟』

「すごく嬉しいなあ」
 泰麒はころころと笑顔で眺めていた。
「お前もやれば出来るじゃん」
 六太はそんな泰麒の幸せそうな横顔を右の目でちらりと盗みみながら、一緒になって目の前にある光景を見つめていた。
 気安げに泰麒の右肩に置かれた手は、まるで励ますかのように軽く握り締められた。
 少し暑く感じる陽脚の中、玄英宮の庭院に招待された陽子は、二人の子供を発見した。
「あの、もしかして、高里くん?」
 陽子が驚いた様に尋ねた。きょとんとした泰麒は、まっすぐに陽子の瞳を見つめ返していた。
「中嶋さんだ。いらっしゃい」
「ちっちゃいんだけど」
「はい。僕は今、特別に小さい泰麒になってるんです」
「どうして?」
「大きい泰麒より小さい泰麒が好きって人が多いからです」
「?」
 陽子は現在の状況を把握出来ずに、小首を傾げる。
 それを黙って見ていた六太は、おかしそうにくすくすと忍び笑いを漏らしていた。予想通りの反応は、やはり見ていて面白いようだ。
「わあ!可愛い麒麟ねえ」
 甲高い声が響き、豪奢な衣装を着た珠晶が遠くから歩いてきた。踵の高い靴を履いている為、歩く速度がゆったりだ。
「供王」
 六太は軽く手を振った。それに答えるように珠晶も小さい手を振り返す。
「ご招待あずかりまして、光栄ですわ」
 こまっしゃくれた笑顔で、簪を揺らしながら頭を下げる。ちりちり、と金属の触れ合う音が聞こえた。
「初めまして、供王。僕、黒麒麟の泰麒です」
「初めまして。噂では聞いていたけど、小さくて愛らしい麒麟だこと。ねえ、そう思わない?景王」
「え?ええ」
 陽子は自分よりも年下に見える少女の威厳に、完全に威圧されていた。これが王というものなのか、と感心する。
「あなたの噂も聞いていたわ。陽子って呼んでもいいかしら?」
「もちろん」
 珠晶は陽子に話し掛けながらも、右手は泰麒の頭を撫でていた。泰麒も大人しく撫でられている。
「これが、言っていたやつね」
 珠晶の向いた先には大きな派手な飾り付けをされた紙が張付けてある板。他の三人もその板へと視線を向ける。
「尚隆がさ、悪乗りして紙の花まで作って貼りつけたんだぜ」
「まあ、延王らしいわね」
「でも、嬉しいです」
「でも、ちょっと派手過ぎでは……」
 目の前にある板には桃色で【十二国の人気者は誰だ?】と大きく書かれ、その下に四人の名前がそれぞれに赤、濃い黄色、明るい青、若草色で書かれていた。
 人気投票の結果らしい。
「私と供麒は接戦だったのよ」
「俺も尚隆と言い勝負だったぜ」
 二人は顔を合わせてにやりと笑った。
「高里くんはすごく人気だったね」
「中嶋さんこそ、すごく票が伸びてたんでしょう?」
 こちらの二人は和やかに笑い合っていた。
 楽しい雰囲気の中、それに気付いたのは泰麒だった。
「あれ?これなんですか?」
 泰麒が指差したのは、四人の名前のそのすぐ上、だった。桃色の題名の下に大きな間隔があり、そこに被せるように白い紙が貼ってあった。
「字を間違えたから、誤魔化す為じゃないの?」
 珠晶はあまり気にしてないようで、素っ気無く答えた。
「確かに、この下に何か書いてあるみたいだが」
 顔を近づけ、注意深く観察した陽子が呟いた。
「剥がしてみようぜ」
 六太が身軽に飛びあがり、上に張られていた紙をばりっと引っぺがした。
「…………え」
 そこからは太くでっかい、金粉の混じった蜜柑色の字で(一番の人気者は延王)と書かれていた。非常に目立つ大きさで。
 呆然とそれを見つめ続ける四人。あまりの幼稚さに言葉も出ないらしい。
 恐らくその近くでは、悦に入った男が一人―――。




END
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ