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□ルルル
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自分を呼ぶ声が聞こえる。また何かやらかしたのか、やれやれと漏らしながら喜助は立ち上がる。玄関から顔を覗かせたウルルに今度はどうしたのかと聞くと違うと首を振った。てっきりセオリーのガラスを割っただとかそういう類の呼び出しだと思っていた喜助がそ
れをそのまま顔に出してジン太を見たので彼はぶすりとした顔で足元を指差した。
「夜一サンじゃないスか」
「久しぶりじゃの」
金色の瞳を持つ黒猫を視界に入れたかと思うと喜助は破顔した。かと思ったらすぐに抱え上げてフーと毛を逆立てる猫を店に入れた。猫の夜一を抱き上げるのは喜助の癖だ。抱き上げられる当人はそれを快く思ってはいない。
「夜一サン、暴れないで下さいよ。落としちゃうじゃないスか」
「さっさと放さぬか」
「あ!ミルクあるんですよ!ちょっと待ってて下さいね!」
「此処にはいつ来てもあるのう」
「夜一さんの為に常備してますからね」
ひら、と手を振ると喜助は台所へ消えた。少しして片手に食器、片手に牛乳瓶を持って居間に戻ってくるとそこで寛ぐ夜一を見てあれ、と残念そうな声を出した。
「戻っちゃったんスか」
「何だ、こちらの姿は気に入らんか」
「いえ、どちらもすきですけど。ただあんまり触ってなかったんで」
「いつも触られたんでは身が持たぬからの」
喜助はいつも入れてもらった牛乳を飲む夜一の首あたりを撫でる。そして夜一もごろごろと喉を鳴らしながらそんな喜助にいつも金色の瞳を細めるのだ。
終