イロハ

□耐えられないものなんてないし…
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褐色の肌、所々はねている長い黒髪。金色の瞳。

それら全ての持ち主は今、目の前で朝ご飯をがっついている。
昔からそうだった。口の周りに米粒が付いているのも気に止めない。教えてあげて初めて気付くようだった。そして焼き魚が好物だ。人の分にまで箸を伸ばしたり、ねだることもある。そんな彼女の為に勿論朝ご飯のメニューに入っている。本当に美味しそうに食べると思う。

「はー、食った!美味かったぞ!」
「お粗末様です。夜一さんここ」

トントン、と自分の右頬を人差し指でさした。一瞬、きょとんとした後、理解した彼女は舌でぺろりと舐めた。その姿につい頬が緩んだ。

「なんじゃ、浦原」
「いや、相変わらずだなぁと思って」
「…懐かしいか?」
「ほんの少しね」

箸の音も茶碗のぶつかる音も聞こえない、いつもと少し違う空気が流れた。食卓でもこんなに静かになるんだなぁ、と驚いた。食事にはたいてい彼女がいて、賑やかだった。

「先に言っておくが」
「なんスか?」

彼女はお茶を一口啜って胡座を組み直した。金色の大きな瞳は真っ直ぐにこちらを見据えていた。

「儂は軍団長であった事に誇りはあるが未練はない」

細まった瞳は本当に猫を思わせた。そして彼女はお前もじゃろう?と尋ねてきた。少し覗く八重歯につられて自然に笑みが零れる。

「当たり前じゃないスか。やだなぁ夜一さんてば」
「そうかの。儂は謝りでもするのかと思ったぞ」

ぎくりとした。確かにさっき謝るつもりだったのだ。

『先に言っておくが』

彼女は全てお見通しという訳だ。昔から嘘や隠し事は得意だったが彼女には通用しなかった。それが不思議であり、少しだけ嬉しくもあった。

「あの頃は良かった、なんて言うつもりは微塵もないぞ」

彼女はいつもの強気な顔で自信たっぷりに言い切ったのだった。その姿は迷いがなく、凛々しくて、恰好良かった。

自分は幸せ者だと、心からそう思った。





真の友情は、前と後ろ、どちらから見ても同じもの。前から見ればバラ、後ろから見ればトゲなどというものではない。

by リュッカート



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