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□幼い10題<完結>
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1.お菓子大好き


二人で旅に出てから、ラクスは終始驚いてばかりだった

ずっとほの暗い部屋に囲われ生きてきたラクスには空が青くなったり赤くなったりどこまでも続いている事すらも不思議だったし
道端の雑草すらも興味の対象だったからだ

ニコニコとした、毎日浮かべていた人形のような笑みはもう作り方を忘れてしまった

前のかいぬしに付けられた傷はすっかり癒えて痛々しかった包帯はもう何処にもない

キラはラクスから雫を受け取る事はなく、時たま欠伸などで自然に出た小さな雫を換金してはラクスの身の回りの物を買ってくれた

「んっと……キラ!出来ましたわ!」

「ん?どれ、見せてごらん?」

一般的な教養すらないラクスは初めて寄った町でキラから与えられた幼い子供向けの知育ドリルで勉強するのが最近の日課でもあった

問題が解けると毎回キラに採点をしてもらう
この待っている間のドキドキすらも心地良いものだった

「うん、全問正解…」

「本当ですか!?良かったです!」

ご褒美、とドリルと一緒に返されたのはラクスのお気に入りのお菓子
手作りではなく大袋に入って、どの町にも売ってるような量産品の一口サイズのドーナツ

キラが町で買ってくれて以来の大好物だった

キラにとっては何気無く与えたのだろうけれど何時も人魚の雫の為に泣いたり血を流してきたラクスにとって
なんの見返りもなく与えられた初めての物だった

「ドーナツ!いただきまーす」

一口サイズのドーナツを半分に割って、よく噛んで味わう
ふんわりと広がる甘さと柔らかさに幸せな気分になる

「ラクスはドーナツ好きだね…」

「んむ、はい!ドーナツ、ふわふわで甘くて幸せな気分になりますの!」

にっこりと笑えばそっか、と優しく頭を撫でてくれる

傷付けられる事しか知らなかったラクスにはキラに頭を撫でられる事も幸せな気分になる理由の一つだった

「次の町に着いたら、お菓子屋さんに行ってみようか?」

「まぁ!お菓子屋さん…夢の国ですわね!」

たくさんのドーナツに囲まれる妄想に頬を染めるラクスだった



end
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