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□初恋にまつわる5題<完結>
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1.こんな想い知らなかった

暗く、淀んだ世界の中で貴方はまるで太陽のようだった

物心付いた時には檻の中で、鎖に繋がれて
いろんな人の元を点々としていた

大抵が真っ暗な部屋に繋がれて、毎日傷を付けられて涙を溢す

かいぬしが飽きたら闇オークションのきらびやかなステージに上げられて
ただただ、跳ね上がる金額をぼんやりと聞いていた

"処女の人魚からしか、透き通る雫は産まれない"

そんな噂のおかげで襲われる事はなかったけれど、一生を檻の中で過ごすのだから関係無いと思っていた

何処の街だか解らない、何度目かの闇オークションの時に一緒になった人魚から教わった
「バカなフリをして、余計な知識を得ない方が大切にしてもらえる」
その言葉を信じて、一般教養も求めず

傷を付けられて涙を溢し、かいぬしが満足したら後はヘラヘラと笑っていれば
本当に、ご飯はちゃんと貰えるようになったし、洋服や、布団まで貰えた

幼い頃の自分は怖くて泣いてばかりだったから、放っておいても雫が取れると最低限の食事だけだったから破格の待遇だった

「…しずかなー…このよるにー…あなたをー…まぁてるのー……」

何も持ってない自分が唯一覚えていた歌
一人で檻の中にいる間の暇潰し

もう何度繰り返したのかもわからない歌を口ずさんでいると微かな気配を感じた

風の音がほんの少しだけ異質になった事に、誰かが部屋に近付いていると歌を止める

(…今日は、雫はいらないと思ってたのにな…)

しかし、何時もなら鍵の音がするのに、と首を傾げていると
扉の向こうでゴトリと鈍い音がして
扉が開かれる

「さぁて…どんなお宝が待ってるのかなぁ? 」

初めて聞く声
廊下の方が明るくて、顔はよく見えないけれど知らない人

かいぬしが来た時も同じように光を背にしている筈なのに
その人の背にする光は違うもののようで
まるで、いつか、ほんの少しだけ見たことのある太陽のようだった

「だぁれ?
あなた、だぁれ?」

声をかけて、警戒するその人が少しだけずれて、視線が絡み合う

今までたくさんの人間に会って、誰もが人魚の自分を物として見て
一生を檻の中で過ごすんだと諦めていたのに…

とても綺麗な紫色の瞳を見て
この人の側に居たい…
檻の中じゃなくて、この太陽のような人と本物の太陽の下でお話したいと強く願った

こんな、泣いて縋りたくなるような気持ちは初めてだった…


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