‡Title

□ツイテル
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密着度100パーセント


あ、しまった

瞬間的にそう思った


自分はどうにも運のない人間だと思う

友人と食事に行けば、躓いて水をかけられたり、注文を間違えられたり、自分の順番で限定品が無くなってしまったり
遅れられない用事ほど電車が停まったり、竜巻や、突然の豪雨に見回れたり
好きだった女の子に友人との恋愛相談をされたり、なんてのもある

そして、なにより困るのは事故の現場によく居合わせてしまうのだ

小鳥や犬猫だけでなく、人間の事故を目撃した回数も両手で足りない程だ

そして今日もまた、フリープログラマーとして自宅での仕事を終え
いい加減底をつきそうになった食材を買おうと家を出たら、交通事故に遭遇してしまった

変わったばかりの青信号を向こう側から軽く左右を見てから小走りで渡りだした女性の身体に大きなトラックが体当たりをして
小柄だったその女性の身体は宙を舞って、壊れた人形のように地面へと投げ出された

一気に騒然とする周囲に、何度見ても慣れない、慣れたくもない事故の様子に目が眩む

咽せ返るような血の匂いに、救助に向かうことも出来ず口許を押さえ蹲る

「……?」

ふと、視線を感じて顔を上げれば
必死に救命措置を行う人だかりの中で、壊れた人形のように倒れる女性と目が合った気がした

瞬間、しまった、と顔を上げてしまった事を後悔した

生命力の薄い瞳が自分を認識しているとは思わなかったけれど、虚ろな瞳はしっかりと自分を見据えているようで
妙な居心地の悪さを感じてその場から逃げ出した

真っ白な肌が青白く染まり
艶やかな桜色の髪を振り乱し
濁った湖面の瞳が自分を捉えて
その全てを塗り潰すような鮮血が広がっていくのが脳裏に焼き付いて離れなくて
コンビニに駆け込んで、トイレで吐いた

(……最近は表に出てなかったからな…
久し振りに見た…)

ミネラルウォーターを買って、うがいをしながら小さく息を吐く

やはり、自分はついていない

さっさと買い物を済ませて、安全な我が家に戻ろうと行き付けのスーパーでカップ麺を数種類とついでにお菓子とジュースも合わせて買い込んで
両手に袋をぶら下げながら帰路に着く

慣れないとか言いながらも、事故を目撃した道をルーチンで通ってしまう辺り、自分は大概だとは思いながら歩く

既に女性の身体は無くて、トラックの破片と地面に染み込んだ赤黒いシミだけが事故の証明をしていた

あんなにも取り乱した癖にしっかりと確認をしてしまったり、明日には忘れるんだろうなと思える辺り
もしかしたら自分は慣れたくもないと思っている事に慣れているのかもしれない

そんな事を思いながらポケットから鍵を取り出して、安全な我が家の扉を開く

ここから先は自分しか居ない、嫌なモノを見たり体験しない場所だとホッと息を吐く

「…ただいま…」

『まぁ、なんて汚いお部屋!!』

「…え?」

返事の返ってくる筈がない部屋で、もう一人の声がした

発信源の斜め後ろを見れば
艶やかな桜色の髪を持ち、澄んだ湖面の瞳を微かに細め
信じられない、と顔をしかめる女性がいた

女性の肌は透き通るような白さ…と言うか、若干透き通っていた

「え…なんで…?」

『こんなお部屋じゃ、病気になりそうですわね』

フンッと鼻で笑う女性は、見たことがあった

いや、名前もなにも知らないが…つい先程、壊れた人形のように倒れる姿を見たばかりだった


この日、どうにもついていない僕に名も知らぬ女性が憑いた



end
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