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□誘拐の仕方
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よくよく見れば、ラクスの手首には掴まれた手の形にくっきりと内出血していて、真新しいそれは数時間以内に出来た物の筈だ

こんなのは子供の戯れ言
きっと、駄々をこねているだけ
ラクスの言う変なことも僕の気を引くための嘘だ

そう思うのに、なんて言葉をかけるべきかと悩む自分もいる

もともと、シーゲルと両親が仲が良くその縁でクライン家とは付き合いがあったし
あの養父なんかよりもラクスとの付き合いは長い
本当の妹みたいに可愛がってきたし…

つまり、ラクスを産まれた時から知る自分はラクスが嘘を吐かない事も知っている

「ラクスー!」

「っ!?」

「っ!!」

遠くから聞こえた、ラクスの養父の声

ビクリと小さな肩を震わせ、青ざめるラクスに息を飲む

どうすればいい…

養父は、まだラクスには気付いていない…

連れて帰って、ラクスを見付けたと報告すれば終わる話だ

ラクスの手を引いて、そっと立たせれば大きな湖の瞳が潤む

「や…き、らく……」

「静かにしてて…」

すっかり冷えきったラクスの身体に今更ながら慌てて上着を脱ぎ、羽織らせると抱き抱える

ラクスを探す声から逃げるようにその場から走り去った


こうして、僕は誘拐犯になった


end
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