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□指先からロマンス
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指をピンと伸ばして、手の甲を向ける

クリーム色のベースに淡いシャーベットカラーの花で彩られた爪は自分の体の一部では無いみたいだった

「おまかせとの事でしたから、今日着てるワンピースからイメージしてみました
もうすぐ春だし、お花畑って感じですね」

「何時見ても、素敵ですわ…」

ほぅ、と溜め息混じりに溢れた本音に向かいに座る彼はクスクスと笑う

「いつも、嬉しいことを言ってくれますね…」

「だって、本当にいつも素敵なんですもの…」

貴方が、という言葉は飲み込んで微笑むと
自分が鮮やかに彩った爪のことだと勘違いして微笑んでくれる

目の前の彼、キラ・ヤマトさんとはもう半年前に出会った

近所に新しく出来たネイルサロンのチラシをポストに配付され
友人の結婚式も迫ってるし、良心的なお値段だし、と軽い気持ちで出向いた

その時にアートを施してくれたのが、業界では数少ない男性ネイリストのヤマトさんだった

一人でサロンを運営する彼に一目惚れをした私は週一で通い詰めるようになった
アートを施してもらうだけでなく、ケアや形を調える事すらヤマトさんに会う口実にしている今では常に爪は完璧な状態だ

仕事中でも、プライベートでも、視界に爪が入っただけでヤマトさんを思い出してにやけてしまうくらいには惚れているのだと思う

だけど、未だにアドレスの交換もなく…
週に一回、こうしてネイルをしてもらう時にお話するくらいで
完璧に客と店員という関係から抜け出せていない

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