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□ファルス
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数時間後、バルトフェルドが目を覚ます頃には戦況は劇的に我が国が有利な状況に変化し
あともうひと押しで制圧、更には城に未だに残る精鋭を派遣すれば国すらも落せるやも、という状況になっていた

「バルトフェルド大佐、後は頼みますね…
私、少々約束がありまして…途中で交代して申し訳ありません…」

「はい、わかりました…
充分…いや…上出来過ぎなくらいの戦況ですよ」

バルトフェルドに引き継ぎをすると急いで部屋を飛び出して私室に飛び込み
普段のドレスではなく町民が着るようなシンプルなワンピースに着替え、何度も袖を通して少々草臥れた赤紫色のマントを羽織り髪をすっぽりと覆うと
窓を開き、慣れた動作でバルコニーから庭に降り立ち、迷路のような庭園を庭師の目を掻い潜りながら抜け、
劣化から脆くなった塀のレンガを外して外に出る

駆け足で街へと続く坂を降り、通い慣れた噴水広場へと一直線に向かう
着いた時には約束の時間を僅かに過ぎていて、遅刻してしまった申し訳なさがあったが
キラの姿が無いことに首を傾げつつ、待たせていないのなら良かったと小さく安堵しながら服を整えてベンチに腰掛ける

いつもキラが現れる方向を見つめていたのだが、一向に表れず
対には短針は待ち合わせの時間よりも2つも先に行ってしまった

(何かあったのかしら…でも、どうやって連絡を取れば…)

彼が泊まっている宿を聞いていなかった、と今更ながらに思い出して、
どうしたものかと途方にくれていると、一人の女性に話し掛けられる

「あんた、いつも此処でキラって男の子と待ち合わせしてる子だよね?
ラクスって名前で会ってるかい?」

「え?あ、は、はい…えと…」

慌てて頷くも見覚えはなく、もしかして忘れてしまっているのかとふあんになると、相手の女性は良かったと息を吐きながらポケットから手紙を取り出す

「あんたが待ち合わせしてる男の子から、お昼過ぎに手紙を預かってたんだよ
仕入れがあって時間かかっちまったんだ
遅くなって悪かったねぇ」

「い、いえ…わざわざ申し訳ありません」

差し出された手紙を受け取り会釈をすると気にするなと笑われる

「しかし、あんたもラクス姫様と同じ名前を付けてもらったんだね
実はあたしも娘に姫様とお揃いのラクスって名付けたんだよ
あの方のように美しく聡明で優しい子になるようにって思ったんだが…
どの親も考えるのは一緒みたいだね」

女性の言葉に本人として照れ臭さもあり、曖昧な反応を返しつつ、
もう一度お礼を告げると手紙を開く

そこには、微かに慌てたようなインクの掠れもそのままの短い言葉が綴られていた

ーラクスへ

急だけど、やらなければならない事があってこの国を立たなきゃ行けなくなった
今日会う約束だったのに、本当にごめんね

やるべき事が全て済んだら、また君に会いたい…
その時は、一生君を離さないから…

 キラよりー

キラがこの国をもう立ってしまったショックと悲しみと
最後の、まるでプロポーズのような言葉に感動と喜びが沸き起こる

(キラ…会えないのは寂しいですが…
私も、キラが戻ってきてくれた時に胸を張れるようにやるべき事をやらなくては…)

手紙を大切に抱き締め、覚悟を決めると城へと急いで戻る

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