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□ファルス
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その日、城を抜け出して
城下町のお祭りにこっそりと参加した

護衛も居ない、小言を言う侍女や、尊敬と畏怖の隠った視線も感じない

何時もと違う空気に、お祭りと一緒に自分も浮き足立っていたのかもしれない

見るもの全てが新しく感じて、録に前も見ずに歩いていたせいか人にぶつかってしまった

「きゃんっ!ん…も、申し訳ありません…」

「いえ、僕も余所見をしていてすみません…
お怪我はございませんか?」

「は、はい…大丈夫、で…」

微かに傷む鼻を押さえながら顔を上げ、言葉が出なくなる

まるで時が止まったかのように感じるほどに見つめあった

全身が熱をもったように熱くて、胸が締め付けられる

一目で恋に落ちてしまったのだと気付いた

「あ、あの…」

「あ…ご、ごめんなさい…
それでは…」

ハッとして慌てて俯き離れようとすると腕を掴まれ引き留められる

「え…?」

「あ、の…えと…僕、旅で今日この国に来たばかり、で…
だから、知り合いも居ないし…せっかくのお祭りだから…い、一緒に見れないかな…?」

突然の申し出にパチパチと目を瞬かせて見つめると、相手は慌てて手を離し残念そうに眉を下げる

「ご、ごめん…迷惑だよね…」

「い、いえ!私も…えと…普段は別の場所に住んでて…お祭りだから来たんですけど…知り合い、居なくて…
だから、えと…」

婚前だというのに異性と二人で街を歩くなんてはしたないと思いながらも、もう少し彼といたくて懸命に言葉を紡ぐ

「えっと…じゃあ、一緒に祭りを楽しもうか」

「っ…はい!」

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