‡Title

□ツイテル
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いいのよ、私は好きだから


目覚めたら、夢だった…って事にならないかな…
そんな事を願いながらそっと瞼を開く

『随分とお寝坊さんなんですのね
不健康ですわよ?』

「……そう、だね…」

天井が透けて見えるくらい薄い女性に顔を覗き込まれ、夢じゃなかった…と肩を落としながらゆっくりと身体を起こす

彼女は数日前の交通事故の被害者で、僕はただの目撃者
しかし、なんの因果が取り憑かれてしまい、寝食を共にしているのだ


((僕と彼女に接点なんてないのに…なーんて、考えてるのかしらね…))

ふよふよと空中で膝を抱えぼんやりとキラの背中を眺めながら考える

ある日目覚めたら彼、キラの側にいた

親や友達、住んでる場所も年齢も全部忘れてしまった私が2つだけ覚えていたこと

それは、ラクスという名前とキラが好きだったということ

そもそも、名前も彼に呼んでもらえたら…という生前の記憶から恐らく自分の名前だろうと判断したものだ

それ以外は、自分の死因も、彼に取り憑いている理由も分からない
どうすれば成仏できるのかだって全く検討がつかない状態だ

((ふぅ…どうしたものかしらね…))

本の数日一緒にいるだけだけれど、キラが酷く運の悪い人なのはわかった

家の中なら安全だ〜なんて笑っているが、
買ったばかりの本にカップラーメンを溢したり
天気が良いからと洗濯機を回して着替えも全て入れた状態で干す段階で土砂降りになったり
徹夜でセーブを忘れてゲームをして、セーブポイントの目前でアパートが停電してしまい8時間のデータが飛んだり…
自分がキラに取り憑いてから何度真っ白になるのを見たことか…

「げほぉっ!?あ、新しいの歯みがき粉じゃなかった…」

((キラ、本当は呪われてるんじゃないのかしら?))

洗面所で歯みがき粉と間違えて買ったらしい洗顔フォームに咳き込むのを眺めながら大きく溜め息を吐く

お祓いを勧めるべきかもしれないけれど、そうすると自分まで祓われてしまいかねない

せっかく好きだった人の側にいれるのだから
もうしばらく二人で一緒に居たい、なんて欲も出てきてしまった

ちゃんと成仏はする、だから…キラとの同棲気分を味わいたい
なんて、キラにとっては迷惑だろうか…

彼は自然と成仏するまで気にするなとは言ってはくれたけれど…

なんて考えていたら背後からパンッと軽い音とキラのうわぁっ!?という情けない悲鳴

慌てて振り向けば半分以上中身のなくなったポテチの大袋を手に、呆然とポテチの散乱する室内を見るキラがいた

『もう…またですか?』

「うぅ…ごめん…」

ガックリと肩を落として散らばったポテチを拾うキラに苦笑を浮かべ
慰めようとキラの頭に手を伸ばす

『っ!!』

するりとキラの頭を擦り抜けた自分の半透明な手に小さく息を飲む

「ふぅ…こんなもんかな…
ん?ラクス、どうかした?」

『い、いえ…なんでも、ありませんわ…』

私が触ろうとした事も、擦り抜けた事も気付いていないキラにニッコリと微笑む

こんなにも大好きなのに、自分と彼が相容れない生き物なんだって思い知らされた

だけど、それでもいい…

私の想いは、叶うわけないけれど
好きだから、貴方の幸せは祈っていてあげる…

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