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□doll
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「…このままじゃ、私はダメになりそうですわ…」
「うーん…家事をやってくれる旦那は喜ばれるけど…キラさんの場合、度を越してますよね…」
たまたま遊びに来たメイリンさんに最近の状況を説明し、ぐったりと項垂れる
因みにキラは今、メイリンがいるならラクスが一人じゃなくて安心だからと夕飯の買い出しに出掛けた
「今では、私はお茶が何処にあるのかすらも解らないのです…
ううん、それだけじゃない…下着だってタンスのどの段にあるのか…全て開けなくちゃ解らないのですわ…」
「そんなに、キラさんが全部してるんですか…?」
ギョッと目を見開いて、キラが淹れていった紅茶を飲むメイリンさんに弱々しく頷く
「私は毎日、ここに…キラの膝に座って微笑んで…
キラが家事をしている間は、キラの目の届くところでお話をして…
お風呂で体や髪を洗ってもらって、体を重ねて…着替えさせてもらって眠る…それだけなんです…」
それ以外、させてもらえないのだと言外に示せば、メイリンさんも同情の視線を向けてくる
「私…このままじゃ、ただのお人形さんみたいになってしまいます…
キラが居なきゃ何も出来なくて、毎日ニコニコ笑って綺麗でいるだけの、お人形さんに……」
グッと息が詰まり、揺らぐ視界に慌てて俯く
キラに愛されるのが嫌な訳では無い
ただ、大好きなキラに少しずつ足場を削られて、身動き出来なくされているような、そんな錯覚に陥るのだ
そのうちに、キラの腕の中以外に安全な立ち位置等無くなる程に自分は何も出来ない、愛玩品に成り果てるのでは…そんな不安に時折苛まれるようになった
「……もしかして、それが狙い、とか…?」
「え…?」
「あ、いや…ただの想像だからどうか解らないんですけどね」
「いえ、構いませんわ…聞かせて…?」
ニッコリと、優しく微笑んで促せば、おずおずと口を開き話し出す
「ラクスさんが、キラさんが居ないと何も出来ないようにして、ずっと自分のモノにしようとしてるのかなって思ったんです…
束縛したいのかなぁ、なんて…思って…」
メイリンさんの言葉はストン、と腑に落ちた
体を重ねる時もそれ以外も、キラはよく愛を囁いて、将来の話をする
恋人同士がする、他愛もない夢物語のようなもの
死ぬまで一緒に、ずっと愛し合っていようと微笑みあうくせに
キラは時折不安そうに、傍から離れないでと縋ってくる
当たり前だと笑えば、ホッとした表情を浮かべ、抱き締めてくる
キラは、永遠なんてこの世には無いと思っているから、だからこそ私が離れて行かないように…離れられないように、雁字搦めにしているのだ
「……バカな人…」
「え?」
ポツリと呟いた言葉はテーブルを挟んだ向かいのメイリンさんには聞こえなかったのか、首を傾げられる
何でもない、と微笑んで紅茶を一口飲む
あの戦争の記憶が私達の心から永遠に消えないように、確かなモノはいくらでもあるのだと、あの独占欲の塊のような悲観主義者に教えてあげるにはどうするべきか、考えようと心に誓う
いい案が浮かぶまでは、このままお人形さんでいてあげてもいいか、と確りと地に足をつけて思う
何せ、時間は死ぬまで…それこそ、永遠のように長いくらいにあるのだから……
End