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□【恋に頑張る10のお題】Side−K<完結>
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そして、上げられた顔はいつも瞳を隠している分厚い眼鏡が擦れ
その間から透き通った湖のような瞳が現れたが
それは涙を溜め恐怖の色を滲ませていた
何事かと思っていれば彼女も目があった事に気付いたのか
艶やかな桜色の唇を小さく開き
微かに、僕にしか聞き取れないくらいの声で呟いた
「……た、助け…ちか、ん…」
「っ!?」
恐怖に掠れたか細い声が発した内容に
一気に頭に血が上り彼女の腕を掴み引き寄せていた
「ごめん、そっち人多くて苦しかったよね
こっちスペースあるからおいで」
まるで周りには彼氏のような振りを見せ付けながら自分の位置と交換した
いきなり移動した事でまさしく今まで彼女の体をまさぐっていた手が宙に浮き
小さく舌を打つ中年のサラリーマンを見付けた
ありったけの力で爪先を踵で踏んでやれば小さく悲鳴を上げ
キツく睨み付ければ気まずそうに無理矢理人波を掻き分けて移動していった
そっと彼女に視線を戻せば余程怖かったのだろう鞄を抱き締め俯き震えていた
人混みに潰されないように壁になりつつ彼女を見詰める
無意識の行動なのか涙目のままハンカチで触られたのであろう太股を頻りに拭っている姿から
もしかしたら男性恐怖症なのかもしれないと思った
あの中年サラリーマンの汚れた手が
彼女の白く透き通った肌に触れていたのかと思うとまた苛ついた
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