*小話

□うたた寝すやすや。
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「──失礼致しますっ、
謙信様!かすがにございます!」






足音は奥にある一つの襖の前で止まった。


早く会いたい気持ちを抑え立ち止まり、走ったので少々乱れた自らの金髪を手櫛で鋤く等、身だしなみを出来る限り整える。

彼女───かすがは丁寧にその襖を開けて、部屋の主に声を掛けた。






「…………?」





だが、反応がない。







「謙信様?」





もう一度声を掛けるが、やはり反応は無い。
しかし、机に向かっている後ろ姿は見えるのだ。



普段ならば、
『どうしたのですか、わたくしのうつくしきつるぎ』
等と仰りながら振り向いて、微笑んでくださる筈なのに。

それが楽しみだったのに…どうなさったのかしら。






「………勝手ではありますが、失礼致します、謙信様…」






もしや具合でも悪いのか、最近戦続きで根を詰めてらしたから…と心配になり、かすがは今だ机に向かったままの彼の傍にそっと歩み寄った。

元々の用事だった、謙信に渡す筈の簡単な報告書を脇に置く。
無礼を承知で、同時に少しばかり心臓を高鳴らせながら、彼の顔を恐る恐る覗き込んでみた。


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