泡沫ノ夢幻

□PAST CLAP SS
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まるで慟哭のような夏の俄雨


激しい雨音と雨の匂いが瀞霊廷を支配する。


「うひゃ〜、見事にやられちゃった。」


ちょうど残業を終えて帰路の途中


突然の激しい驟雨に、あたしは近くの軒下に飛び込んだ。


「雨の匂いはしてたんだけどね…」


独りで土色の空を仰いで。

聴覚を支配する雨音に、ゆっくりと瞳を伏せた。



ふと、雨の中を駆けてくる足跡。


近づく足跡は、ぴたりと。


伏せていた瞳を開ければ、飛び込んでくる黒の装束。
自分と同じ、死覇装。


唯一違うのは、白の羽織。


「………ッ…?!」



間違いない。

隊長格の方だ。


しかも六番隊の。

いつだったか、六番隊の隊長はとても厳しく、冷徹な方だと聞いた。

怖い、かも…


気まずくなって、あたしは顔を俯かせた。



どうしよう。



このヒドイ雨の中じゃ移動するのは無理そうだ。
気まずいとはいえ、逃げるなんて失礼極まりないのだが。



雨に濡れた羽織から、雫が滴る。


風邪を引いてしまいそう…



「……あ、の…宜しければ、お使い下さい」



懐から手ぬぐいを取り出して、そっと差し出す。



振り向いた横顔の、なんと美しいことか。



「………使わせて、頂くとしよう」



そういって手ぬぐいを静かに受け取ると、ゆっくりと雨粒を拭う。


「…お前は、何番隊の者だ」


伏し目がちな紫水晶の瞳が、あたしを捉える。  


「…十番隊に、所属しております」


眼が、離せない


流れるような黒髪から雫が零れ落ちる


その姿のなんと妖艶なことか。



「そうか…。また、いずれ会うだろう。その時にこの礼をしよう。」


ふわりと、淡く

ほんの少しだけ口元に微笑みを浮かべて。


静かに去っていく貴方を



いつまでも見つめていた。



いつのまにか


雨は上がっていた





2007.01.07加筆修正

 

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