■FF■

□この手を取って未来まで
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「もう直ぐ雨が降るぞ、と」


窓を見遣ると、蒼鉛色の空を厚い雲が覆っていた。
仄かに湿った、雨が降る前の独特な匂いがする。


「しかも土砂降りの予感」

「これから外に出向くと言うのに、困ったものだな」


ふ、とニヒルな笑みを浮かべた社長がお気に入りの外套を手に取って同じ様に窓の外を見詰めた。


「あんたはちっとも濡れないくせによく言うぞ、と」

「私の所為で部下が濡れるのは心苦しいという意味だ」

「何かその言い方語弊ありません?」


怪訝に社長を見ると、社長は愉快そうに笑っている。
絶対わざとだ。


「雨が降る如きでいちいち不貞腐れるなレノ。
惚けていないでさっさと出掛ける用意をしろ」

「あれ、今日の護衛って確かツォンさんじゃなかったですか?」


何て首を傾げたらいきなり手首を掴まれて椅子から立ち上がる様にと上にグイッと引っ張られる。
俺は慌てて立ち上がった。


「ツォンは生憎と別の仕事に出ている」

「じゃあルード」

「ルードも別の仕事だ」

「イリーナは?」

「彼女も、だ。」


全員居ないとなると


「じゃあ今日は二人?」

「私と二人では何か不満か?」


社長が不敵な微笑みで俺の指に自分の長い指をゆっくりと絡めながら言う。


(全く性格悪いぞ、と)


「喜んで護衛させて戴きますよ、と」


俺はその手をギュッと握り締めて、誓いを立てる様に口付けた。


「最近は調子が良い様だな」

「ん?」

「少し前までは顔色も悪かっただろう。
確か、丁度一騒動あった時だったか」


記憶を辿っているのか視線を上空に向けて首を傾げる。
そう言えばそんな事もあった様な気がした。


(でもあれは)


「私の所為、だったな」

「よくご存じで」


皮肉る様に言ったら社長は不敵に笑った。






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