小説
□crystal sound
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【17】
「待ちくたびれた」
振り向くと、そこにはあるじが立っていた。まさか、あるじは既に準備が整っていたなんて。待たせてしまっていたなんて。私はまた、ミスを犯してしまったんだ。恐怖に苛まれ、自責の念に駆られた。手足が震える。小刻みに。あるじのお顔を、直視できない。
あるじは私に近寄った。今度は何をされるのだろう。ぎゅっと目を瞑り息を殺した。しかしあるじは、私に触れなかった。
あるじが手にしたのは、私が準備した荷物の方だった。
「何している。早く」
見送りを。特に気にする素振りも見せず、あるじは玄関の向こうへと背を向ける。急いで後を追い、その姿に対して頭を垂れた。
「行ってらっしゃいませ。お気をつけて」
例え見送りでも、屋敷から外へ出ることは許されない。屋敷の玄関から敷地の外に出る門までは距離がある。あるじはその道を歩いていく。私はその姿を見届ける。遠ざかっていくあるじの後ろ姿を、見えなくなるまで眺め続ける。それが、いつもの見送りの光景だ。
外には幾人かの人がいた。庭の手入れをしてくれる庭師たちだ。私は外に出られない。だから庭の手入れができない。屋敷の管理は私の仕事。けれど庭だけは、定期的に業者に委託している。庭師の彼らに任せている。
なるほど、と勝手に納得した。先ほど窓の外に見た人影は、きっとこの庭師たちの誰かだったんだ。この屋敷を訪ねる者なんて、今となっては1人もいない。人影は庭師だと考えるのが自然だ。そんなことを、ぼんやりと考えていた。風が頬を撫でていく。すると。
「貴様、何をする」