小説
□Fight!! 〜Round 3〜
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【1】
「あ、春樹!!」
親友の姿を見つけて、冬真はご機嫌に駆け寄っていく。
「おはよう、冬真」
「うん、おはよう。久しぶりだねー!」
暦の上では既に秋なのに、まだまだ気温は高い。太陽がアスファルトをジリジリと焼きつける。遠くに見える山なんて、熱せられた空気の中で揺らめいている。
「夏休み、終わっちゃったね」
冬真は名残惜しそうに言った。
それもそのはず。
冬真たちは小学6年生。今年の夏休みが、冬真たちにとって小学校で最後の夏休みだったのだ。
「まだ、こんなに暑いのにね」
春樹は、額の汗を手の甲で拭った。
「だよね! なんでまだ夏休みじゃないんだろ?」
冬真は口を尖らせた。
そんな冬真を見て、春樹は笑った。
「春樹、どうしたの?」
冬真は首を傾げる。
「だって冬真、低学年みたいなことを言うんだもん」
「ひっどーい! 春樹がそんなこと言うなんて思わなかったー!!」
口を尖らせたままの冬真は、同時に頬を膨らませた。
「ごめんごめん、ついだよ」
謝りながらも、春樹は笑いを堪えていた。
「もう……春樹、なんだか夏史みたい」
春樹は「夏史」と聞いて、少しだが心臓に痛みを感じた。
あれは夏休みよりも前のこと。春樹は冬真に告白し、そして失敗しているのだ。更に、冬真と夏史が結ばれていることも知っている。夏史に、片思いの相手を取られたのだ。
しかも春樹は、夏史のことが好きではない。夏史は冬真が好きな癖に、いつも喧嘩ばかりしている。それが2人にとってのコミュニケーションの1種だと頭では理解しているつもりだが、やはり冬真を傷つけていると感じてしまい、どうしても釈然としないのだ。
しかし春樹は、冬真も一緒になって俯いていることに気がついた。
「冬真、どうしたの?」
「うん……」
冬真は歯切れの悪い答えを返した。
「夏休みの間、殆ど夏史に会えなかったから……」
冬真が夏休みの間に夏史に会ったのは、登校日である1日だけ。他の日は、学校のプールで会うことも、会って遊んだりもしていないのだ。
正確には、遊びに誘うために何度か電話をしている。
しかしその度に、電話越しだが喧嘩になってしまい、遊ぶ約束を漕ぎ着けるまでに至らなかったのだ。
「今日、学校に行けばきっと会えるって」
春樹は冬真を慰めるように、優しく声をかけた。
「そう、だよね……」
春樹の言葉を聞いて、冬真は笑顔を作った。
早く、夏史に会いたいなぁ……。
冬真は、自然と足の運びが速くなった。