小説

□Fight!! 〜Round 4〜
1ページ/36ページ

【1】

 がちゃり。
 鈍い金属音を響かせて、扉が開かれる。扉をくぐって外へ出ると、そこには開放感溢れる青空が広がっていた。
「うわー、すごーい!!」
 冬真は歓声を上げ、屋上の中心へと駆けていく。
「な? ここの鍵、盗んでおいて正解だっただろ」
 くるくると鍵についているキーホルダーを指で回しながら、白い歯を覗かせて夏史は笑った。
「うん! 本当は勝手に出るの禁止されてるけど、悪い事だってことも忘れちゃうくらい気持ちいいねー!!」
 冬真は足を投げ出して座る。その隣で、夏史も胡坐をかいた。学制服が汚れることなんて、気にもしないで。服の汚れなんて、中学生の彼らにとっては屋上から見える校庭の生徒くらい、とても小さなものだった。
「それにしても、夏史っていつもこんなに気持ちのいい所でお昼食べてたの?」
 冬真はパンを頬張りつつ訊ねた。そのパンの端っこを、夏史はひょいと千切って食べる。
「そんなのどうでもいいじゃないか。昼飯食う場所なんて、個人の自由なんだから」
「そうだけど……」
 夏史の答えが不服なのか、それともパンを盗られたことが気にくわないのか。冬真はむっと口を尖らせる。
 夏史はごろんと横になった。空を漂う雲を眺めるように、頭の後ろで腕を組んで。冬真は紙パックの牛乳にストローを刺した。
「なぁ、冬真」
「んー?」
 冬真はストローを咥えたまま、夏史の呼びかけに返事した。
「好きだよ」
「ぶふぉっ!?」
 冬真は飲んでいた牛乳を吹き出した。夏史が、有り得ない台詞を口にしたから。冬真は今まで、夏史に言葉で直接、想いを告げられたことがなかったから。
 何、突然……。
 冬真がそう言おうとしたその時。
「この場所が」
「へっ?」
 夏史は冬真の反応を見て、にやりと意地悪そうな笑みを浮かべた。
 ……からかわれた?
「夏史のばかぁ……」
 冬真は不貞腐れた表情をして、牛乳を一気に吸い上げる。そんな冬真を見て、夏史は満足そうだった。
 しかし急に、冬真は後ろを振り返った
「どうしたんだ?」
 冬真の反応が気になって、夏史は身体を起こし上げた。冬真は辺りを窺うように、しきりに首を動かしている。
「今、誰かの声が聞こえたような気が……」


 
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ