小説

□PRIVATE TEACHER 5
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【1】

 3月。
 の、末日。
 真夜中だというのに、部屋には電気がついていない。暗闇の中で、ただ1つの明かりを除いては。
 その人工的な光は、携帯電話の待ち受け画面から放たれている。武井陽介は、それをじっと眺めていた。何時間も、何時間も。
 陽介はあの子からの連絡を待っていた。かつて「陽にぃ」と呼んで慕ってくれた、可愛らしいあの子からの。
 陽介とその子は、本当に心から愛し合っていた。その子には、世界で1番幸せになって欲しいと願っていた。だからこそ、陽介はその子から身を引いた。
 陽介もその子も男だから。そして、年齢が離れているから。それは世間から、決して許されない恋愛だったから。
 けれど陽介は今、その子からの連絡を待っている。ただの未練ではない。陽介はあの子に、考える機会を与えたのだ。
 あの子は、陽介との恋愛しか知らないのだから。女の子との恋愛を知らないのだから。だからあの子が高校を卒業するまで、陽介は待っていた。それでもあの子が陽介との恋愛を望むのならば、陽介はそれを受け入れる覚悟でいた。
 ずるい考えだと思った。それに正直なところ、未練がないわけではない。でもあの子が出した答えであれば、陽介はそれに従うつもりだった。
 とはいえ、未だにあの子からの連絡はない。高校の卒業式だって、3月の頭には終了しているはず。それでも連絡はないのだから、答えは判り切っている。
 だけど陽介は、携帯電話を手放すことができなかった。やはり心の奥底では、期待してしまっているのかもしれない。
 自分の浅はかな気持ちに気づいて、陽介は苦笑した。こんな曖昧な気持ちだから、きっとあの子は連絡してこないんだ。なんて、勝手な理由を付加させて。
 そして、陽介は携帯電話を閉じた。暗い部屋から、唯一の明かりが消えた。
 時計は深夜0時を示している。
 4月になった。
 結局、あの子からの連絡はなかった。


 
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