小説
□I'm here
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【1】
ピーポー、ピーポー・・・
救急車のサイレンが辺りに木霊する。
こんな、深夜の時間帯なのに。
にもかかわらず、沢山の人だかりができている。
しかも、小学校の校舎の前に。
ピーポー、ピーポー・・・
ウー・・・
救急車と共に、パトカーもやってきた。
人々がざわめく。
静寂なはずの夜の闇が、不自然に掻き消される。
救急車とパトカーから、数人が降りてくる。
そして彼らは、それぞれの仕事に取り掛かる。
まるで、機械のように。
それが、決まりきった仕事であるかのように。
集まった人々のざわめきは、更に音量を増す。
ただ、どんなに賑やかになったところで、彼らの興味を引くものは、ただ1つ。
彼らの視線の先にあるものは、ただ1つ。
それは、1人の少年の身体。
冷たくなった、少年の身体。
学校の屋上から飛び降りて、自殺した少年の変わり果てた姿だった。
自殺した少年の名は、司(ツカサ)という。
俺の、1番の親友。
いや、今となっては、親友だったと言うべきであろうか。
だけど俺は、人だかりの中を掻き分け、司の姿を確認しようとは思わなかった。
正確に言えば、余りの出来事に動揺していて、思考が停止していて、ぴくりとも動くことができなかった。
全ての経緯を、眺めていただけ。
群れる集団から少し離れたところで、動向を眺めていただけ。
・・・その日俺は、唯の傍観者だった。