*It's a small world*

□*It's a small world*
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【お弁当とカレーライス - 1】

 4限目終了のチャイムが鳴り、教室内がにわかに騒がしくなる。すぐさま廊下へ駆けていく生徒や、机を四角く寄せている生徒。中には、机に突っ伏している生徒までいる。
「うぅー……」
 呻き声と共に、胃が伸縮する音が僕の耳まで届いてくる。聞こえなかった振りをして、鞄の中から弁当箱を取り出した。
「三鷹くん、ここで食べるの?」
 長めの黒髪を揺らしながら、一条さんの弾んだ声が飛んできた。手には赤と白の可愛らしいチェック柄の包みが握られている。
「まさか。詩音が俺たちとの約束忘れてるはずないだろ」
 今度は水色の包みを持った小南くんが現れた。な? と笑顔で問いかけられて、ぼんやりと今朝の会話を思い出した。
 忘れていた。
 眠い目をこすりながら、判然としない頭を確かに頷かせたような気がする。今日のお昼はみんなで食べよう。そう約束させられたような覚えがある。
「ま、提案者があんな状態なんだけどね」
 苦笑しながら、一条さんは親指で後ろの死体を示した。先ほどから呻き声をあげている人物。琴原秀哉という名のお調子者。
「うぅー……」
 秀哉は未だに呻き声を上げている。机に伏せた顔を上げようとしない。既に授業は終わっているというのに、ノートや教科書が出しっ放しになっている。
「昼飯を買い忘れたらしい」
 加賀見くんは冷めた視線を秀哉へと向けている。僕にもその気持ちはよくわかる。あれが、ちゃんと自己管理できない人間の成れの果てだ。あんな人の家に居候していると思うだけで、僕は自分で自分が情けなくなる。呆れてため息しか出てこない。
「早く屋上行こうぜ。俺、お腹空いちゃったよ」
 おどけた口調で小南くんが言う。僕はすぐさま、広げ始めた自分のお弁当を包み直す。
「いい場所空いてるかなー?」
 早く早くと急かすように、一条さんは僕の背を押した。この学校の屋上は、生徒が自由に使えるようにいつでも開放されている。当然、僕たちのように昼休みを屋上で過ごす生徒も珍しくはない。日当たりの良い場所や座るのに適した場所などは、まるで椅子取りゲームのように人気が殺到する。
「で、あれはどうするんだ?」


 
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