寄贈小説

□風の吹くままに
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冬が終わり、桜が咲き乱れる春のはじめごろ。
小学校の始業式の日の下校時、
川の土手を歩いている一人の少年がいた。
この日は晴天で、桜の花びらが太陽の光に照らされて薄桃色の光を放っていた。

土手を歩いている少年は元野 修(もとの しゅう)。今日から小学六年生だ。
無表情な顔つきは、子供らしさを残しつつも無愛想な顔をしている。
頭の回転がよく、運動神経もいいといった優秀な生徒だ。

そして、修の後ろから全速力で走ってくる少年がいる。
「修っ!!待ってよ〜!!」
彼は宮本 潤也(みやもと じゅんや)。修と同じクラスだ。
いつも笑顔で、幼い顔つきで身長もさほど高くない。
頭はいいが運動神経はあまりよくない。
二人とも巷では有名な私立の学園に通っている。
修は聞こえていないのか、振り返りもせずに歩いていく。
「まってってば〜!!」
やっと追いついて肩をつかむと大きなそぶりで振り払われて、
「なんでだよ。わざわざ追っかけてくんなよ!!」
と、ガンを飛ばす。
そんなこともお構いなしに、
「もぅ、一緒に帰ろって行ったのに・・・置いていくから真剣走ってきたんだよ。」
息を切らしながら淡々と喋っていく。
「今日、修の家行っていい?新しいゲーム買ったんだ!!一緒にやろ?」
息を整わせながら喋っている。
「やだ、俺忙しいから。」
うそだぁ、といいながら更に喋り続けている。

結局、家に帰り着いて数分したら潤也は勝手に家にはいってきてゲームの準備をしている。
「俺は断ったはずだぞ。それに、何勝手にはいってきてるんだ?」
せっせとゲームの準備をしながら、
「ん?ちゃんとお邪魔しますって言ったけど!!それより、早くやろうよ!!"ファイクエ"!」
気づいたらもうゲームをつけて、俺のコントローラーまでしっかり置いてる・・・。
「しょうがねぇなぁ。ちょっとやったら帰れよ!!」
結局、こうやって自分のほうから折れてしまう。

・・・いつからだっけなぁ。
こいつ(潤也)が、俺に慕うようになったのは。
確か・・・
〜去年の秋〜
土手の下のほうに修と同年代か、はたまた年上くらいの数人少年が戯れていた。(当時5年生)
真ん中に誰かがうずくまっているように見える。
「ほら、もう終わりかよ!」
「速く立てよ!!」
そういいながら、その中の一人が真ん中にあるものを蹴り飛ばした。
うずくまっているものから'うっ'と鈍い声が漏れた。
「ひっで〜!!」
といいながら、他のやつは笑っている。

またいつものやつか・・・。
ひどいと言っているのにその口調は愉快そうに聞こえた。
修は土手を降りて、少年の輪に近づいた。
しかし少年たちは修に気づく気配はない。
そして・・・
「おい…」
修はそれだけ言うと一番近い少年の肩を真剣ひいて、思いっきり顔を殴り飛ばした。
「なっ・・・」
周りの少年がつぶやき、殴られた少年は後ろに弾かれ尻餅をついた。
しばらく沈黙の時が流れた。
真ん中でうずくまっている少年が泣き顔をあげてこっちを向いた。
その直後である。
「おい、なにしやがんだ!!」
といいながら、修を真剣に睨みながら胸ぐらをつかんだ。
修は真剣に睨み返した。
すると、殴られたやつが頬を押さえながら、
「おい、そいつ五年の元野だよ。」
少年たちが顔をあわせた。
「元野って同級生三人と喧嘩して全員病院送りにさせたあの?」
むなぐらをつかんでるやつが、ゆっくりと手を離した。
そして、少しづつ後ずさりをしていった。
「おい、逃げるぞ!!」
一人が言うのが速いか、少年たちは一目散へと逃げていった。
そして、ゆっくりとうずくまっている少年に近づいた。
「おい、大丈夫か?」
手を差し出すとビクンと体が震えているのがわかった。
ゆっくりと後ろを向いて立ち去ろうとしたとき。
「あの…ありがとう。」
振り返るとまだ、少し泣き顔ながらも満面の笑みでいった。

よくみると、隣のクラスの宮本だった。
「なんだ、宮本か・・」
一瞬の沈黙が訪れた。
「うん、元野修君だよね?ホントに有難う。」



それから、何かと懐いてきて今に至るというわけだ。
因みに潤也のいえは、超金持ちで父親と祖父が大手会社の会長と社長…。
本来ならまったく手の届かないような場所にいるはずの人だ。
そして、あれこれ考えてるうちにもう五時になった。
「あ、もうそろそろ帰らなきゃ。バイバイ!!」
そういいながら手早くゲームを片付けて玄関に向かった。
俺も見送りに玄関までいった。
「潤、帰り気をつけろよ」
潤也は満面の笑みでうなづいて、
「うん、ありがと」
といった。

大体いつもこんな感じだ。
あとは、テレビを見たりパソコンで掲示板を見たりなど。
寝るまでそんなことをしている。
ご飯は冷凍ものをレンジでチン。
親は、両方とも毎日出張ばっかで月四日いるかいないか。
帰ってきてもよるごろに帰ってくるから、ろくに話もしない。
そして、また学校が始まった。
そとで、風がうなっている。
少し遅れて、春を伝えに来たのかもしれない。

 
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