S・S

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【sunny】

あの頃の僕はいつも独りぼっちだった。

でもそれは、自分で原因を作っていたのかもしれない。

伝えるのが下手だった。

読み解くのも下手だった。

それは互いにぶつかり合って、溝を深くするだけだった。

「青空って、プコプコしてるよね」

僕が笑顔でそういうと、友達はみんな、声を揃えて「はぁ?」と言った。

先生や他の大人たちも、顔を顰めるだけだった。

1番つらかったのは、両親の作り笑顔だった。

僕の前では微笑んでいた。

けれど僕がいないところで、パパもママもひそひそ話を繰り返していた。

「あの子、大丈夫だろうか」

「私、あの子がわからないわ」

「1度医者に診てもらったらどうだ」

「駄目よそんなの。周りになんて思われるか……」

僕は全部聞いていた。

閉ざされたドアの向こう側で、そんな会話がされているのを。



ある日学校へ行かず、人気のない空き地で空を眺めていた。

捨てられたコンクリートの上に座って、ぼんやり雲を見つめていた。

時間がゆっくり流れていた。

気づいたら傍に、初めて見る子が立っていた。

ランドセルを背負っていたけど、僕より身長は高かった。

「青空って、プコプコしてるよね」

僕はその子に訊ねてみた。

同じ過ちを繰り返していた。

なのに僕は、それを口にせずにはいられなかった。

「なにそれ」

返ってきたのは、何度も耳にした言葉。

けれどもその子は、笑っていた。

「雨の日って、へちへちしてるよね」

僕はもう1度訊ねてみた。

「そうなの? 全然わかんねー」

「曇りの日は、うにゃうにゃしてると思うんだ」

「……あー、それはなんとなくわかるかも」

それから、僕とその子は仲良くなった。



その子の名前はわからなかった。

教えてくれなかったし、僕から聞くこともなかった。

僕の名前も教えていなかったし、その子から聞かれることもなかった。

それでも何度か顔を合わせた。

1週間に1回か2回、同じ場所で空を眺めた。

特に会話をすることはなく。

別に何かをするわけではなく。

隣り合って座っている時間が、不思議と穏やかで心地好かった。

「青空って、プコプコしてるよね」

ある日そう言い出したのは、その子の方だった。

「って、前に君は言っていたよね」

僕はコクリと頷いた。

「俺はね、クプクプしてるって思ってる」

言ったときのその子の笑顔は、今までで1番輝いていた。

そうして、月日は流れた。

その子に会ったのは、それが最後の日となった。



あれから、もう10年が経つ。

制服に身を包んで、鞄を片手に学校へと向かう。

今日の天気は青空だ。

だけど僕はもう、プコプコしてると言わなくなっていた。

思ってるけど、言わないだけ。

時々親には心配されるけど、特別気に留めないことにした。

慣れないうちはつらかった。

今でもつらいことはある。

それでも僕は、上を向く。

晴れ渡る青空を仰ぎ見る。

結局、あれからあの子に会っていない。

それでも僕は、未だに青空のクプクプを探している。

「……よし!」

勢いをつけて、最初の1歩を踏み出した。



[fin]

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詩っていうか絵本っていうか。
小説っぽくない変な感じになってしまった。
……いつも?
 
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