小説

□とりっく☆ついんず
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【2】

 いつからだろう。夏休みが、1年のうちで1番楽しいイベントだと感じられなくなったのは。小学生の低学年の頃は、それなりに楽しみにしていた記憶がある。祭りや肝試し、花火大会の予定合わせに、休みに入る前から頭を悩ませていたことだってある。宿題の多さに文句を言い、目を擦りながらラジオ体操をしたことだって覚えている。幼い頃は、俺だって普通の夏休みを過ごすことができたんだ。
 それがいつの間にか、うだる暑さに身を委ねるだけの行事へと変化していた。何もやる気がしない。暑さにだれているだけじゃない。動こうとする気力が湧いてこないのだ。夏休みだけじゃない。毎日の生活を、ただただ空虚に消費しているだけ。学生生活が、とても馬鹿馬鹿しく思えて仕方がないのだ。
 それは、高校生になって拍車がかかったように思える。部活で汗を流すわけでもなく。バイトで小遣いを稼ぐわけでもなく。遠い未来の受験に備え、ひたすら問題集と睨めっこを続ける日々。くだらない。実にくだらない。
 気がついたら、2学期の始業日が近づいていた。ベッドの上でケータイを眺め、ぼんやりとそんなことを考えていた。時間はそろそろ、昼時を迎える頃。それでも身体を起こそうなんて、これっぽっちも思わなかった。
 遠ざかる意識の奥で、玄関のチャイムが鳴る音が聞こえた。ような気がした。家には母さんがいるはずだ。もう暫く、このまま睡魔と戯れよう。
「紅太ー、ちょっと降りてきてー」
 母さんの呼ぶ声が聞こえた。行きたくない。返事をするのも面倒だ。けれどもいかないと、もっと面倒なことになるのは間違いない。ため息をついて身体を起こし、それから頭を掻いて舌打ちをした。ジャージの裾を引き摺るように、のっそりのっそり階段を降りる。
「なに?」
 階段を降りたところに母さんはいた。寝ぼけ眼を向けると、母さんがぼやけて4人に見えた。
 ……いや、違う。明らかにおかしい。4つの人影のうち、2つは確実に母さんの大きさをしていない。眉をひそめてよくよく見ると、子供が2人、立っていた。


 
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