Boy's Love.[短編倉庫]
□暗猿
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シャッ‥‥シャッ‥‥‥ジュクジュク‥‥ぽたっ…‥‥…。
――ほっ‥‥紅い‥。 リストカットとは、自分の生を確認するためのものだ、とはよく言ったモノだな……。
天国は、自嘲気味に笑いながら思考を巡らす。 このいつバレてもおかしくない様な状況の中何で俺は、こんなバレやすい手首なんて切ってんだろ……?
いくらでも、バレにくいところなんてある筈なのに…。
――俺は、この行為を誰かに止めて欲しいのか?
それならば、沢松に止められている時点でやめている筈なのに何故、俺はまた血を見たくなってしまうんだろう‥?
「…さ‥‥…君!!‥‥猿野君!!」
自分を呼ぶ声により、現実に引き戻される。
「‥‥お〜、ねずっちゅーおはよーさん!!」
そうか…今はまだ、朝練に向かって歩いてる途中だったな。
「あれ?猿野君。何か今日元気ないっスね。
どうかしたんスか?」
沢松だけでなく、子津にすら分かってしまうほどに、表情にでているのか……。
――…ヤバいな…‥。
「そんなことねぇって!!お前は気にしすぎ何だよ!!」
天国は、いつもの笑顔をできるだけ自然に見えるように、顔を創ると子津を思いきり投げ飛ばした。
「痛いっス〜酷いっス〜。」
子津は、天国のいつもと少し違う調子に違和感を覚えながらもホッとする。
そして、いつものように泣きながら抗議をしてきた。
「ガッハッハ。ごめんなパ〜イ。
んじゃ、グランドへダッシュじゃ〜!!」
「あ〜猿野君。待ってくださいっス〜。」
天国達が着替を済ませグランドに向かうと、会う人全員に心配されたが、お得意の笑えないギャグで全て誤魔化した。
朝練が終り各々、教室に向かう。
――‥あっ、‥怒ってら‥‥。
教室に入り自分の席に座り隣を横目で見る。
――沢松……ごめん……。
そう心の中で呟く。
――‥‥あ‥‥口‥。
『謝るくらいならもうすんじゃねぇよ。バーカ。』――か……出来たら苦労してねぇよ。
天国は、沢松が口パクで伝えた言葉を理解すると、そう口に出したい気持をグッと堪える。
沢松に教師が来たら適当に誤魔化すよう言ってから、息が詰まる教室からでて屋上へ向かう。
“立ち入り禁止”と書いてあるのを無視して、造った合鍵を挿し込み回した。
…ん〜……気持いー風…。
――人の気配…!?
「誰かいんのか‥?」
「‥‥……。」
「…司馬……。」
意外、だな……サボッたりしなさそうなのに…。
「‥今、意外だって‥思ったでしょ…?」
――……‥‥!?
「司馬!!声!!!初めて聞いたぜ‥」
「‥ねぇ‥答えて。」
「へあ?‥うん、意外‥…。
それにしてもお前の声、綺麗だな〜。」
「‥‥ありがと‥‥。
隣いい…‥?」
「あ…ああ、いいぜ。」
そう言って俺の了承を得た司馬は、無言で俺の隣に座った。
「…猿野も座りなよ…。」
「そうだな…。」
「……………‥。」
「………………。」
沈黙が心地よく、優しい気持ちになる。
コイツにとっての普段の俺だったら、沈黙なんて耐えらんねぇんだろうな‥‥‥。
――‥‥今は、どうでもいい‥。
「猿野……。」
「何だ‥?」
「‥いつでも、聞くから言ってね‥‥。」
司馬は、そう言ってさり気なく俺の傷をシャツ越しに触ると、立ち上がり静かに屋上を後にした。
…気付かれて、た‥?
――どうしよう。こういうのも悪くないかもしないとか思ってる……。『司馬ならいい。』と思ってしまった。
――触られたのに、いつものように払いのけられなかった…。
どうしよう。世界が壊れる音がする。
――――
それすら、受け入れられそうな自分が畏いんだ。