拙作、小説

□ピンポンだっしゅ
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 しかし実際はそうではなかった。
 いや、計画が失敗したわけではない。
 妻を愛せなくなってから娘が産まれるまで。その期間が思いのほか長かったのだ。
 一人目の子供が産まれたとき、私はまだ妻を愛していた。
 そのとき妻は成人しており、もしかしたらこのままずっと愛せるかもしれないと思った。
 一人目は男の子だった。
 二人目の子を授かったとき、私はすでに妻を愛していなかった。
 このまま愛しつづけられるかもしれない……というのは私の夢想にすぎなかった。
 二人目も男の子だった。
 私はなかなか娘が産まれないことに、イライラし、焦った。
 妻にもかなりの嫌悪を感じていた。
 妻も子供もなにも悪くないのに、私は苦しむしかなかった。
 そして結婚から約十年後。待望の娘が誕生した。
 私は高ぶる心をなだめて、妻に離婚を申し出た。
 彼女は驚くほど簡単に、それを承諾した。
「華代は僕が引き取るからね」
 そう言ったときも、彼女は「いいわよ」と言った。
 妻は娘には興味がなかったのだろう。
 もちろん、私にも。

 今日は機嫌がいいらしい。
 日記を書くのは初めてだが、作文嫌いの私がこんなに長く書いてしまった。
 それもそのはず。
 今日は最愛の娘――華代の誕生日なのだ。
 冒頭にも書いたが、やっと九歳になった。
 いまはまだ異性としての魅力はさほど感じないが、あと数年もすれば色気も出てくるだろう。
 いや、そうならなくたっていい。
 私は娘が生まれたその瞬間から、彼女を愛しているのだ。
 子供としての無邪気さ華やかさ素直さ、そういった魅力は十二分に感じている。
 本当に愛しい。
 さすが、私が唯一愛した女性の娘だ。
 いや、私の娘だから、かもしれない。
 長い間待ちつづけた甲斐があった、と思う。
 私の長年の努力――その結果が華代だとすら思えてくる。
 いや――努力はまだこれからだろう。
 今度は華代に、娘を産んでもらわなくてはならない。
 これからもしっかり華代を教育して、私を嫌いにならないようにしなければ。
 まだまだ、気が抜けない。
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