拙作、小説

□ダメショートの集い[全10作]
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暗黒ショートショート「つまらない日常の中で」


 あぁ、ヒマだ。ヒマすぎる。
 何をする気も起こらない。
 惰眠を貪(むさぼ)る気にさえなりゃしない。
 みんなはこういうとき、何をするだろうか。
 やはり何もしないのだろうか。
 そのうち、息をすることをやめ、心臓を動かすことさえやめてしまう。
 ……なんて、そんなヤツはいないだろう。というか居てほしくない。
 だってそれは、そいつにとっちゃあ自殺なんだろうけど、こんな問題提起したオレにしてみれば、
 オレが殺しちまったも同然なんだからよぉ。
 ……なんて書いたら、余計むきになって死んでしまうのかな。

 たとえば、これはいま、オレの手が勝手につづっているだけの文字の羅列だ。
 だからいま、この時点では、オレ以外の誰の目にも触れず、誰かを殺してしまうなんてことは絶対に起きない。
 けれど、この文章を、そう――たとえばインターネットなんかに載せちまったらどうなるだろうか。
 これを見た不特定多数の人間のうち、ほんの数パーセントのヤツらが死んでしまうかも知れない。
 いや、死ぬヤツの数なんてどうでもいい。
 問題は、もし死んでしまったら、ということだ。
 ただのひとりでも死んでしまえば、それはイコールオレが殺したようなものだ。
 誰だって知ってると思うが、人を殺すってのは立派な犯罪だ。
 ヘタすりゃ死刑もんだぜ。
 でも、この場合はどうなる?
 たしかに殺したのはオレかも知れない。というかオレなんだ。
 けれど、オレが直接手を下したわけではないし、おそらく証拠だって残らないだろう。
 つまり、完全犯罪だ。無差別だけど、な。
 オレは実質的に何人かを死に追いやってしまったかも知れない。
 けれどもオレが罪に問われることはない。
 証拠はないんだ。
 ただそいつが勝手に死んだだけさ。

 もう少し考えてみよう。
 これが実際に起こった場合、そこにドラマは生まれるだろうか。
 答えはNOだ。
 オレが文章を載せる。
 誰かが死ぬ。
 けれど、その事実を確認するすべがあるだろうか。
 答えは否(いな)。
 周りの人間はもちろん、文章を作った張本人であるこのオレ自身にさえも、そんなことが在ったなんて分かりゃしない。
 確認のしようがない。
 全ての人間がその事実を見過ごし、その事実は無かったこととして処理される。
 真の事実では、「そいつは文章を見て死んだ」ということになる。
 が、
 我々の知り得る事実という世界では、「そいつがただ単に自殺した」ということになる。
 つまり。
「事実上」、オレはそいつを殺してないし、そいつも殺されてなんかいないのだ。
 事実とはなんと不確かなものだろうか――――

 ピンポンパンポ――ン

 オレはチャイムの音で目を覚ました。
「なんてひどい悪夢だ」
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