拙作、小説

□2007年からの作品[全?作]
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【ゴスロリ】

 わたしには気前のいい兄がいる。
 ふだんはたいして優しくない兄だが、ショッピングには快く付き合ってくれて、お洋服を買ってくれたりするのだ。
 兄はいかにも“オトコ”という感じのゴツい日本人男性で、ショッピングなんてガラじゃないのに、なぜだろうか。不思議に思う。
 まぁ、ふだん優しく接してやれない可愛い妹に対して、多少うしろめたさを感じているのだろう。兄は高収入のバイトをやっているから、お金持ちなのだ。
 わたしは兄をあまり好きではないが、お洋服を買ってくれるし、ボディーガードの役目もはたしてくれるのでうれしかった。
 そんなふうにして、わたしの買い物にはたいてい兄が同行する。おかげで男が寄ってこず、彼氏もいないが、あまり興味がないので構わない。
 わたしはお洋服があればそれで満足なのだ。
 最初のころ、ショッピングに慣れない兄は、ほとんど口を開かなかった。しかし今では、その姿からは想像もつかないほどの明るさでお洋服を眺めている。
 そうなのだ。
 なぜだか、兄はお洋服のお店のときだけ、微妙にテンションが高いのだ。
 そして、お洋服を選びながら会話していてわかったのだが、兄は結構、オシャレに詳しいのである。
 もしかしてわたしの影響……?
 いや、ふつうにそうだろうとは思うのだが、兄の容姿でお洋服に詳しいのは、すごくギャップがあり、笑えた。だからわたしは、内心のクスクスを隠しながら兄と接するのだった。
 わたしはお洋服が好きだ。どんなお洋服かというと、まぁ、つまり、「ゴスロリ」と呼ばれるたぐいのお洋服である。
 フリルのついたメイドさんみたいなやつをロリータファッションというが、それのダークな感じのものを、とくにゴスロリとよぶ。ゴシックロリータの略だ(非常に簡略な説明なので興味のある方はきちんと調べて下さいね)。
 近年では、数年前に深田恭子ちゃん(深キョン)が映画で着ていたのが話題になった。「下妻物語」という映画である。
 ……そんなマニアックな話はさておき。
 実は昨日もばっちりお洋服を買ってもらって、今の気分はウキウキなのだ。
 今日はゴスロリ趣味の人達の集まるパーティーがあるので、さらにテンションが増す(いや、パーティーのために買ってもらったんだけどさ)。
 興奮のためか、まだ夜の明けない暗いうちに目が覚めてしまった。寝付けない。やはり、お洋服の確認に行こうと思う。
 というのも、昨日のできごとが夢だったのじゃないかという、嫌な妄想にかき立てられているからだ。
 そんなはずはないのだが、なぜかそう感じる。だってあんなに立派で高価なお洋服を買ってもらうなんて、まるで夢みたいだったんだもの。
 わたしは部屋を出てお洋服のある納戸にむかった。
 と、廊下に出た時点で異変に気付く。
 納戸の扉があいており、そこから光が漏れていたからだ。おまけに奇妙な声と物音がしている。
 誰かいる……!
 わたしは緊張した。
 耳をすませながら納戸に近付く。
 泥棒だったらどうしよう……。よりによってなんでお洋服のある部屋に忍び込むのよ? わたしのお洋服に触れたらただじゃおかないんだからね? ぶっとばしてやるわっ! あ、でも、そんなことしたらお洋服が痛む可能性も……。くっそー、お洋服を人質に取るとは……許せんっ!!
 わたしは内心いかりつつ、息も殺して慎重に納戸にむかった。
 男のものらしい声が、だんだんと大きくなる。
 ん? どこかで聞き覚えのある声……。
 まさか!!
 わたしは扉のすき間から、その光景を見た。
 兄が……兄が、昨日買ったばかりのフリフリの可愛らしいドレスを身にまとって、くねくねしていた……

   END
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