拙作、小説

□ダメショートの集い[全10作]
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超短編小説「図書館」


 クラスマッチが始まってすぐ、図書館にかけこんだ。
 図書館に先客はおらず、ボクはひとりだった。
 不思議なことに、目の前にあるパソコンが起動していた。
「パソコンの電源がついたままですよ」
 と係りの人に教えようとして、気づいた。
 図書館には誰もいなかった。
 図書館を管理・運営をしている司書さんさえもいなかった。
 文字通り、ボクは一人だった。
 そのような奇妙な状況の中、とりあえず目の前のパソコンでメールチェックやネットサーフィンをやった。
 10分が経過した。
 しかし誰一人、図書館を訪れる者はいなかった。
 変だ変だと思いつつ、孤独が好きなボクは、気が楽でいいや、と思った。
 また10分が経過した。
 ちょうどメールの返信を完了させたところだった。
 相変わらず、ボクは一人きりだった。
 気になって、窓から外を見てみたが、誰もいなかった。
 心なしか、空が暗かった。
 ボクは再びパソコンの画面に向き直り、ネットサーフィンを始めた。
 そしてまた10分が経過したころ。
 背景が真っ黒な掲示板でおかしな文章を発見した。
 そこにはこんな内容のスレッドが立っていた。

『今ぼくは高知高専の図書館にいるのですが、周りに誰もいません。
 図書館の人も先生も生徒も、誰一人として居ないのです。
 不安でしかたありません。
 もしかしてぼくは異世界に迷い込んでしまったのでしょうか。
 誰かレスください。お願いします。』

 ボクは目を疑った。
 高知高専の図書館? そんなはずはない。
 なぜなら、ボクがただ一人でパソコンをつついているのも、高知高専の図書館だったからだ。
 ありえない……しかし実際にありえている。
 ボクはとにかく、自分と同じ境遇の彼に、レスをつけてやった。

『びっくりしたなあ。
 実はボクも、同じ場所で同じような状況に立ってるんだ。
 高知高専の図書館で、ひとり孤独にネットサーフィンやってたら、きみのスレッドを見つけた。
 どうしてこうなったのか、なぜ同じ場所にいるのに分からないのか、
 まったくもって分からないことだらけだけど、
 とりあえず状況を確認しよう。
 きみはいつ図書館に来たの?』

 返事はすぐにやってきた。

『レスありがとうございます。
 それ、本当ですか? あなたも「ここ」に?
 それはとても不可解ですね。
 ぼくが図書館に来たのは、クラスマッチが始まってすぐのことでした。
 図書館に入ると、目の前のパソコンが起動していて、
 司書さんに報告しようと思ったら、事務室には誰もいなかったのです。
 不審に思ったぼくは、図書館中を探してみましたが、結局誰も見つかりませんでした。
 あなたはどうでしたか?』

『ボクも同じだ。
 目の前のパソコンが起動していて、館内には誰もいなかった。
 でもボクは一人でいることのほうが好きだから、
 気楽でいいや、という感じで、そのパソコンをつつき始めたんだ。
 時間が経っても、誰もここに来なくて、
 不安になって窓の外を見てみた。
 でも誰もいないし、晴れてるはずなのに空が暗かった。』

『何から何まで同じですね。
 そうなんです。
 館内だけでなく、外にも人っ子一人いないんです。
 空も妙に暗い。
 だからぼくは、異世界に迷い込んでしまったのではないか、と思ったんです。
 人間のいない世界……人間だけがすっぽりと消え失せてしまったような世界に迷い込んでしまったんじゃないか、と。
 不安でたまらなくなったぼくは、この掲示板でこんなスレッドを立てたんです。』
(つづく)
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