拙作、小説

□僕の干渉ショート[1作]
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 少年は、いつかの誰かとは違い、引き返さなかった。ゆっくりとではあるが、着実に奥へと近づいている。足音はとっくに外に漏れなくなっているだろう。
 これで少年は、もう外の世界とは隔絶された。少年はすでに、この暗闇の住人なのである。
 カツン、カツン、……
 足音はすでにはっきりと、大きくなっていた。少年はもう間もなく、この場所へとやってくる。この廃墟の最奥部へ。
 さて、どんな顔をしているのだろうか……。
 私はあまりの興奮のために、ヨダレを垂らしそうになった。舌でかき集め、ひといきに嚥下する。久しぶりの獲物に、胸がうち震える。
 カツン、カツン、カツン。
 ようやく、少年が現れた。少年の足音が前方でやむ。
 暗闇でもはっきりと物が見える私の目にまず飛び込んできたのは、少年の姿ではなく、氣……いわゆるオーラというやつだった。少年の纏う氣が私の目には眩しい……。それほどに、少年の氣は強大であり、禍禍しいのだった。……眩しいというのは語弊があるかもしれない。少年の氣の色は、黒――つまり闇だったのだから。
 ………………。
 私は絶句するしかなかった。
 少年は、迷い犬などでは決してない。そんな馬鹿な見当をつけた自分が浅ましくも愚かしい……。
 少年は、それこそ悪魔と呼ぶにふさわしいだろう。
 ………………。

「あなたは、誰ですか」

 絶句する私に少年が、問う。声はいやに鋭かった。
 私は答えた。

「……私は、あなた様に遣える者でございます」

「僕はあなたのことなど知りません。本当のことをおっしゃって下さい。あなたは何者ですか」

 その言葉はあまりにも静謐で、冬の冷気とあいまって、私の体をゾクリとさせた。

「占い師でございます。この廃墟に閉じ籠り、迷い人を占うことを生き甲斐としてきました」

「そうですか。では僕はお邪魔でしたね。僕は迷い人ではありませんから。
 お邪魔しました」

 少年は踵を返して、去っていった。
 何の感情もない、カツン、カツン、という冷たい音を響かせて……。
 しばらくして、自分が茫然としていたことに気づく。全身を、冷たい汗が濡らしていた。
 初めてだった。ここへ来た者を外へ帰したのは。
 なぜなら、ここから一歩も出ない私の食糧は、ここへ自らやってくる、好奇心旺盛な人間だけなのだから……。

       END
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