拙作、小説
□ケータイ、小説[06年7月〜全9作]
2ページ/25ページ
【ヒトリ】
僕は二人の友人とともにこの合宿に臨んだ。
知る者のいないこの見知らぬ土地で、僕と二人の友人はいつも三人でいた。
しかし今日、僕は寝坊をして一人で食堂に行くことになった。
二人は食事の前、部屋のドアを叩いて僕を起こそうとしてくれたらしいのだが、なかなか起きないので先に食事を済ませたのだという。
正直に言えば、僕はこの二人を友人だと認めてはいない。ただなんとなく一緒にいるだけなのだ。
それに、僕は群れるのが好きじゃない。
さして気にすることなく、僕は一人、食堂に向かった。
混む時間帯なのだろうか、いつもより人が多かった。チャラチャラした若者や老けたおやじたちがうるさく存在している。僕の嫌悪する環境だ。
そして、恐ろしいという気持ちにさせられる環境だ。
人が嫌いだ。
人が怖い。恐ろしい。
いまに始まったことではなく、もう何年も感じていることだが、いまだに慣れない。困ったものだ。
料理を盆に載せ、どこに座ろうかと迷いながら足を踏み出す。いつも三人でテーブルについているので、今回はカウンター席に座ることに決める。だいたい、一人でテーブルを占領するのはよくない。
僕は食堂の隅っこの席に腰を下ろした。
そこで気づく。
こんなところに座っていたら、まるで友達のいないカワイソウなダメ人間みたいに思われるかもしれない……。
その考えは思いついた次の瞬間には頭を霧のように覆っていた。
ボクはトモダチがイナイ……。
ボクはカワイソウなヤツダ……。
ボクはダメなニンゲンナンダ……。
ボクはヒトリ……。
僕は全力をもってその悲しい考えを追い払おうとした。
しかし、いっこうに消えない。
それを嘲笑うかのように、忌まわしい人間たちの声が耳に響く。
僕は手が震えないように注意して食事をした。半分混乱している頭を懸命に制御した。
ふとした瞬間に箸を取り落とした。盆に落ちた。
エビフライの衣が頬についた。手で拭った。
持っているコップの水面が波打っていた。急いで水を飲み干した。
手が震えて箸がうまく持てなくなった。握り箸にしてご飯を一気にかき込んだ。
誰にも気づかれないように深呼吸をひとつして、席を立ち盆を持つ。
食堂から外に出るまで、絶対に不審な挙動はしてはいけない。
僕は、ボクは、普通を装わなければならないんだ……!
焦る気持ち。
急ぐココロ。
途中、食器を片付けるために並んでいる隣りの人の邪魔になったりした。心の中ですばやく謝った。
そしてついに、食堂の扉を開けて外に出た。
扉を閉めて、安堵に胸を撫で下ろす。
部屋に戻ろうと思い廊下を歩きはじめる。他人とすれ違うのに備えて体と心を緊張させる。気を強くもっていないと心が負けてしまうから。
食堂につづく一本道の廊下。前方から足音がして少し顔をあげる。
見覚えのある服が二人分、見えた。
二人の友人だった。
(さ、先に食事を済ませたんじゃ……)
二人は僕に気づくことなく通り過ぎ、食堂へと入っていった。
二人は笑っていた。
END