拙作、小説

□タイトル輸入先行型小説[1作]
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「わんっ」
 私はそれしか発音できない。しかも老いぼれなので必死に叫んでようやく発声することができた。
 少年が動きを止めてこちらを見た。私は少年に駆け寄った。
「なんだ……おまえ、ついてきたのかよ」
 少年はおかしなことを言った。さっき猫が鳴いたとき、たしかにこちらを向いたのに……。
「……ひょっとして、さっき猫が鳴いたのは、おまえがいたからか? ちょっと遠くて見えなかったのかな。オレは目が悪いから」
 少年は私の頭をなでた。人の手の感触を、私は久々にあじわった。とても気持ち良かった。
「しかし……ごめんな。うちはアパートだから、おまえを飼ってやれないんだよ」
 よしよし、と言いながら少年は頭をなでつづけた。私はいま人間になぐさめてもらっているのだ……と思った。私は近くにきた少年の顔を見た。
「……そんなに見ないでくれよ。そもそも、うちは貧乏で、オレだってメガネを買う余裕もないんだ……。うーん、そうだなぁ……アイツに頼んでみるか。ここで待ってろ」
 少年はすばやく部屋の中に入って扉をしめた。
 まさか自分のようなみすぼらしい外見の老いぼれを飼ってくれる人間なんているはずないと思っていた。しかし今、少年はこんな私をなでてくれた。私はそれだけで幸せだった。昔私をたいそうかわいがってくれた少女のことを思い出して、目頭が熱くなった……。
 少年はなかなか出てこなかった。そのうちに他のアパートの住人がやってきて、邪魔だクソ犬と言いながら私を蹴った。
 アパートの外にまでふっ飛んだ私は、住人の邪魔にならぬよう、外で少年を待った。
 ……結局、日が暮れて夜が明けても、少年は出てこなかった。私は蹴られたときについた傷をなめて、空腹の腹をかかえて、待ちに待ったが、無駄だった。
 そのまま昼ごろまで待ちつづけたが、少年の入っていった部屋からは誰も出てこなかった。
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