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□叶わぬ夢なら覚めないままで
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ティエリアが手を添えた窓の外には、広くて深くて暗い、宇宙が広がっていた。映像で見ただけの、トリニティと交戦していた機体――疑似太陽炉搭載型MS、GN-X――ジンクス。今まで絶対的上位を示してきたCBと、国連軍の力関係が入れ替わる程の力を持つ機体。もう、後がないと思った。もちろん端から負ける気で戦うなどという愚かな行いはしないが、それでも逃れられない審判が下るのは、理解できた。

(もはや俺達にできることは、ただこの身に世界の悪意を受けること、それだけだ。)

拳に、無意識に力が込められる。今まで行ってきたことへの罰を、神がどれほどの重さをもって自分達に課せるのかは分からないが、それでも一つだけ、確実なことがある。
どんな形で終えようと、たぶん自分達には何一つ残らない。全ては世界の結末で、CBはその波に消されるだけなのだ。


「ティエリア、」

耳に馴染む声がして、ティエリアは背後を振り返った。予想と違(たが)わず、待機室の扉からアレルヤが入ってきた。

「休まないのかい?今のうちに少しでも体を休めておかないと…」

低重力の中を、アレルヤがこちらに進んでくる。そのまま手をとられて、ティエリアは自分よ
り少し高い位置にあるアレルヤの顔を見上げた。

「平気だ。お前こそこんなところにいる場合ではないだろう。」

機体のチェックでもしたらどうだ、そう言いたかった筈の言葉を、ティエリアは飲み込んだ。今更だ、と思ったのだ。

「……こんな状態だからね、君の傍にいたいよ。」

アレルヤがガラスの向こうの宇宙を見つめながら、ぎゅう、と繋いだ手に力を込める。君が嫌でも離してあげられない後免ね、と小さな声で謝られた。

「…刹那と、ロックオンは、」

「二人とも食堂。いつも通り、ロックオンは刹那にミルク飲ませるのに躍起になってたよ。」

「……変わらないな。」

「でしょう?あの二人は、昔からそう。」

アレルヤの言葉の語尾が震えるのを、ティエリアは聞かない振りをした。こんな状況でも、普段通りに笑うロックオンを、刹那を、裏切りたくなかった。

「ねぇ、ティエリア。知ってる?」

ぽつりと、アレルヤがそうもらした。何をいきなり、とティエリアが顔を上げれば、アレルヤの優しい瞳とぶつかる。普段以上に悲しい光を讃えた銀灰色の瞳に、離れてしまう、とティエリアは漠然と感じた。アレルヤの指を絡めるようにして手を繋ぎなおしても、アレルヤは
何もいわなかった。

「あれ、るや…」

「今日、ね。エイプリルフールって言って、嘘をついても良い日なんだよ。」

一瞬にして、ティエリアはアレルヤが何を言おうとしているのか分かった。だから逃げようとしたのに、反対にアレルヤの腕の中に捕えられてしまう。

「アレルヤ、嫌だ、やめ「ティエリア、聞いて。僕ね、この戦いがもし終わったら、世界が平和になったら、その平和な世界でね、君と一緒に暮らしたいんだ。」

海の近くがいいな、静かなところがいい。君と二人で。
夢をみるような口調が心臓を抉る。アレルヤを止めたいのに止められなくて、ティエリアは涙を溢した。アレルヤはそれを拭ってはくれなかった。

「ティエリア、ずっとずっと、一緒にいたいよ。」

「…〜〜〜っ」

言葉が喉に詰まって出てこなかった。

“嘘をついても良い日なんだよ。”

「ティエリア、一緒に、…」

約束は果たされない。
この手には何も残らない。
他人の命の上になりたつ小さな小さな優しい恋は、
間違ってなんていなかったのに。





叶わぬ夢なら覚めないままで


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