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□手の届く距離で
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宇宙のターミナル、ティエリアが搭乗する軌道エレベーターのシャトルが到着するまで、あと10分。不機嫌を押し出した表情をトレミーを出た時から隠そうともしないティエリアを見て、アレルヤは苦笑した。

「ティエリア、そんな顔しないで。仕方がないんだよ。」

「…何が仕方がないことなどあるものか。ミッションがあるわけではないのに、何故地上に降りなければならない。」

「ずっと宇宙にいるのはティエリアの体によくないんだよ。」

「しかし、地上は嫌いだ。」

「うん、そうだよね。頑張って。」

「………」

むっつりと押し黙ってしまったティエリアを見て、アレルヤは素直じゃないんだから、と息を吐く。ティエリアだって、そろそろ地上に降りなければいけない時期が来ているのは分かっている筈だ。即ち、機嫌が悪いのには他に理由があって。

「………なんで、」

「ん?」

そこで一度、ティエリアが言葉を飲み込む。

「………なんで、お前は降りないんだ。」

酷く小さな声でそう言いな
がら、ティエリアがきゅっと眉を顰める。無言でおずおずとこちらに伸ばされる手を優しくとってやりながら、アレルヤはティエリアと目線を合わせるように身を屈めた。

「寂しい?」

「な…っ、違う!お前がいないと何かと不便だからで、俺は、」

そういう意味で言ったんじゃない、たぶんそう続いただろう言葉は、しかしティエリアの口からは出てこなかった。代わりに繋いだ手に力を入れられて、アレルヤは口許を緩める。

これは「気付いて」の合図。
ティエリアは無駄にプライドが高いから、甘えるような言葉も、ましてや愛の言葉なんて口には出せない。心と態度はいつも裏腹で、付き合い始めの頃はアレルヤも本意が汲めなくて困ったものだったが、一番困惑していたのはティエリア本人だった。

(だから、大好きも愛してるもいつでも言える僕が助けてあげないと、)

「ティエリア、僕は凄く寂しいよ。こんなこと言っちゃいけないけど、ずっと一緒にいたい。」

「………そんなの、」

無理だ、とティエリアはこれも言わなかった。
寂しさに、押し潰されそうになってしまうのだろう。それでも少し離れているだけで寂しいと思える今は幸福な瞬間で。

「……じゃあ、いってらっ
しゃいのキス、してあげようか。」

楽しそうな笑みを浮かべながらアレルヤがそう言うと、ぱっとティエリアの頬が朱色に染まる。

「な…っ!馬鹿か君は!ここを何処だと…!!」

「宇宙のターミナル?」

「……っ!!」

そのまま、ティエリアがうつ向いて、体の横の拳が震える。あ、怒らせたかなぁ、とアレルヤが思っていれば、ティエリアはアレルヤに持たせていた自分の荷物をばっと取り上げた。

「も、もう行く…!」

ぎゅうと抱き締められるホワイトの鞄を少し羨ましく思いながら、アレルヤはいってらっしゃい、と優しく言う。それを聞いたティエリアの瞳がうろうろと逡巡するので何だろうと思って見ていれば、今度も小さな声で、それも真っ赤になって「いって、くる。」なんて言うものだから、アレルヤはその余りの可愛さに笑ってしまいそうになった(本当に笑えば怒られるから、我慢したけれど。)





手の届く距離で



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