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□手の届く距離で
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エージェント所有ホテルのティエリアに割り振られた部屋のベッドの上、姿勢は膝を抱えた格好で、一時間。一時間も、ティエリアは個人端末を前にそうしていた。

「………」

じっと真っ暗な待機モードのモニターを見る。しかし、どれ程の時間、どれ程の眼力でモニターを見つめ続けようと、一向に事態は好転しなかった。

(このモニターの向こうに、アレルヤはいるというのに。)

ティエリアは抱き抱えていた膝に、ぎゅっと力を入れる。一時間程前、ロックオンがどうしても、というので刹那も引き連れて夕食に行って、そこから帰ってきた。何の変哲もないパスタの店だった(ロックオンはネットで下調べをしただとか言っていたが、正直どうでもいい)それから、ふと思い付いたのだ。どうせ就寝の時間までは暇なのだからアレルヤに通信を入れてみてはどうかと。ミッション以外の私用で通信を入れたことのなかったティエリアは一瞬躊躇したが、スメラギやクリスティナは買い物を頼む為だけに地上待機しているロックオン辺りによく通信を入れると聞くし、平気かと判断した。――それに何より、アレルヤの顔を見たかった。ティエリアが気に入っている銀灰色の瞳がふわりと滲んで笑みを浮
かべる様を見ることが出来るならば、それはとても良い思い付きのように思えたのだ。

しかし、思い付いたまでは良かったが、実行が出来なかったのだ。ティエリアは自分のプライドの高さと素直になれない性格をあまく見ていた。アレルヤの番号は誰より通信を入れやすい位置に(端的に言えばアドレス欄の一番上に)登録してあると言うのに、どうしてもパネルに手が延びなかった。きちんと、アレルヤが部屋にいるだろう時間を考えていたのに、これではアレルヤが寝てしまう。

(あいつが、通信を入れてくれれば良いのに。そうすれば、俺がこんなこと…)

そんな考えまで浮かんでしまう。アレルヤはちゃんとシャトルが地上に着いた時間に合わせて連絡を入れてくれたのに、今度もアレルヤ任せな思考ばかりが頭をよぎる。

「アレルヤ…」

届く筈もないのに、ティエリアは今は宇宙にいるアレルヤの名を呼んだ。
その次の瞬間、モニターの待機画面が唐突に解除され、呼び出しを告げるコールが部屋に鳴り響く。その相手はアレルヤだ。
ティエリアはびくりと体を縮めた後、急いで通信を開く。ぱっと画面に求めてやまなかったアレルヤの顔が映った。

『こんばんわ、ティエリア。良かった、まだ寝て
なかったんだね。』

「アレルヤ…」

『何か変わったことはなかったかい?ちゃんと食事はとった?』

君は自分の生活には無頓着だから心配だよ、そう言うアレルヤの優しい声が、表情が、とても懐かしく感じる。

「…ロックオン達と、食べた。別に心配されるようなことじゃない。」

『そっか、良かった。そういえば、呼び出しに出るの早かったね。……待ってた?』

「……っ!そんなことっ」

『ふふ、ティエリア、顔が正直になっちゃってるよ。本当は、通信入れようって、思ってくれてたんだよね?』

「…そんな、こと、」

ない、とは言えない。だってその通りだ。アレルヤに自分の考えが筒抜けなのは頂けないが、しょうがない。

『遠慮なんてしなくて良いんだよ、君を邪険になんてしないから。いつでも、僕は君が大好きだからね、』

「………っ!!!」

その余りに恥ずかしい台詞に、ティエリアは反射的に通信を切ってしまった。
アレルヤが慌てた声が少しだけ聞えたけれど、繋ぎ直すのは、やっぱり出来なかった。





手の届く距離で



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