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□まい でぃあ!
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「いらっしゃい、ティエリア。」
地上で待機しているホテルの自室のドアを開けながら、アレルヤはにこりと笑いかけた。しかし、目の前のティエリアは眉を寄せ、不機嫌を露にしている。見るからに機嫌が悪そうだ。
「どうしたの?」
「………分かっているくせに、一々聞くのか、君は。」
低くそう言いながら、アレルヤの許可も取らずにずかずかと部屋に上がりこむ。借りているだけの部屋だとはいえ、他人の部屋に断りもなく入ってしまったティエリアの細い背中を見送って、アレルヤは小さく溜め息を吐いた。
(まさか他の人にはしてないと思うけど…)
ティエリアが自分に気を許してこんなことをしているのならば良いが、もしも他の男相手でも同じ行動をしているのならば、さりげなく注意しておかなければ、と思いながら、アレルヤはティエリアの後を追う。
「アレルヤ、用意は、」
「出来てるよ、もちろん。でも後少し待っていてくれる?」
「……分かった。早くな。」
言いつつ、ティエリアがダイニングテーブルのイスを引き、そこに腰を下ろす。早く、と甘い真っ赤な瞳が見上げてきて、アレルヤは苦笑した。
なぜ今ここにティエリアが
来ているのかと言えば、ホテルで出た今朝の朝食がティエリアの苦手な焼き魚メインの食事だったからだ。それを見た瞬間に、アレルヤはこれは食べられないだろうなぁと思いつつ、ティエリアの様子を観察していた。いつもの無表情を一瞬崩し、付け合わせのスープのみを飲み干したティエリアはすぐに席をたった。食べられないとシェフに言うことはしないものの、しかし絶対に口にすることはないのだ。
だから、アレルヤは部屋に帰ってすぐ、ティエリアの為の朝食をティエリアが食べられるメニューで用意していた。
「ねぇティエリア、お礼とか、ないの?」
「お礼…?」
なんのことだ、と言いかけたティエリアだが、アレルヤが言おうとしていることに気付いたのか、ああ、と小さく声を漏らした。
「なんだ、見返りが欲しいのか?」
「うーん…、その言い方はどうなんだろうねぇ、」
「はっきりしろ。」
上目使いで睨まれてアレルヤは降参、という風に笑った。
「欲しい…かな。駄目かい?」
「…俺が出来る範囲でな。」
なんだ、とティエリアが聞いてくる。借りを作りたくない主義であるティエリアだからイエスが返って来る
という予想はあったが、こうも簡単だと拍子抜けだ。しかし、ここは欲望に忠実になるべきだろう。
「じゃあこれ、着てくれない?」
「………何故だ。作るのは君だろう。」
不審そうに首を傾げるティエリアに、良いから、と持っていたエプロンを押し付ける。これは男の夢だから、なんて馬鹿みたいに正直なコメントはしないが、一度は見たいと思っていたのだ。
食欲に負け、渋々とエプロンを身につけるティエリアを見ながら、アレルヤは頬が緩むのを押さえられなかった。いつかティエリアに着てもらう為に、と買っておいた赤地に白色の花が散りばめられた可愛らしいデザインは想像以上にティエリアに似合っている。実は一番可愛いなぁとか思っている腰のリボンを絞め終えたティエリアがこちらを振り返り、どうだ?なんて聞くものだから、アレルヤは我慢出来ずに、その細い肢体を腕に閉じ込めていた。
「似合ってる、ティエリア」
「……嬉しくない。というか、離せ。」
「ご飯作ってあげるから、我慢して?」
そう言ってやれば、デザート追加だ。とティエリアが胸に顔を埋めたまま、言ってきた。これはもしかして脈ありだろうか、とちょっとした幸せを味わいつつ、アレルヤは思った
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まい でぃあ!
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