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□ありふれた非日常
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ぼふっ、とベッドに座りペーパーバックに目を通していたアレルヤの隣に、新たな人物が腰を下ろす。
トレミーの固いベッドと違って、ここ、王留美所有のホテルのベッドは柔かく、大きい。ベッドから与えられた反発のままに背中からばふりとベッドに倒れてしまったティエリアを、アレルヤは見下ろした。

「どうしたの、ティエリア。珍しくお出掛けしたってロックオンに聞いたけど、もう帰って来たのかい?」

ティエリアが出かけた、と聞いて、アレルヤが誘ってくれれば良かったのに、と思ったロックオンとの会話から10分足らず。余りに早い帰還にアレルヤは目を瞬かせた。ティエリアは地上が嫌いだから早く戻ると思ってはいたけれど、その反面、嫌いでも出かけたのだ。それなりに何か所望する品があったのだろう。しかし、見る限りではティエリアは手ぶらであるようで、途中でUターンしてきたのだろう。

「……何か不満なことでもあったの?眉間、皺寄ってる。」

「………」

消えなくなっちゃうよ、と額を指でつついてやれば、ティエリアがふいとそっぽを向いた。

「……手を、握られた。」

「…は?」

「さっきホテルの少し離れたところで道が分からない
という人物がいたので道を教えてやったら手を握られた。」

なぜ初対面の他人に手を握られねばならない。不機嫌な顔でそういうティエリアに、アレルヤは思い当たることがあり、ああ、と小さく呟く。

「それ、握手だよ。挨拶…この場合はお礼、かな?」

「挨拶で手を握るのか?」

「うん。ユニオンの人は基本フレンドリーらしいからね。それに、軽い抱擁とか、口付けとかも挨拶みたいだよ。」

「ほうよう、…くちづけ?」

ますます苦い顔をするティエリアに、アレルヤは苦笑する。人との接触を嫌う上に一般常識のないティエリアには、そういう地域の風習みたいなことを教えておいてやれば良かった、と思いながら。

「嫌だったの?手、握られて。」

「……馴れ馴れしいのは嫌いだ。」

そう言いながらも、ティエリアはアレルヤにあてがわれた部屋に無断で上がり込み、一応は他人であるアレルヤのベッドを占領している。これで馴れ馴れしいのが嫌だなんて、自分には随分慣れたものだとアレルヤは思った。でもこういう事を言えばすぐにでも部屋を出てしまうだろうので決して言わないが。

「そっか。じゃあ、僕と手を握るのも、嫌?」

そう言いながら、
ベッドに置かれたほっそりと白いティエリアの手を、その上から包み込むように握る。嫌がられたらすぐにでも離す気でいたが、ティエリアが「別に、」と言ったのでそのままに。
こうなれば、どこまでいけるのか気になるもので、アレルヤは手に持っていたペーパーバックを無造作に放り出すと、ティエリアに覆い被さる。そのまま、ベッドとティエリアの背の隙間に手を差し入れ、自分の方に引き寄せた。腕の中に細い肢体がおさまって、アレルヤは笑みを溢した。
合わせたティエリアの顔は、真っ赤だ。

「これは、嫌?」

「わ、分からな…っ、」

慌てたようなティエリアの様子が可愛くて、アレルヤは「拒まないと、知らないよ。」とティエリアの耳元で呟く。ぴくりと、ティエリアが身体を震えさせた。

「じゃあ、次ね…」

ちゃんとそう宣言してからティエリアの唇に己のそれを近付けていく。それでもやっぱり途中で止めて、挨拶なんかじゃないよ、と言えば、ティエリアが真っ赤な瞳を揺らした。

「…うるさい、お前なら平気だと、言っている。」

震えているくせに睨んでくるティエリアはとてつもなく可愛くて、
アレルヤは無意識に抱き締める腕を強めた。





ありふれた非日常



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