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□春風の中で会いましょう
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「ロックオン!」

こんなところにいたんですね、と大きな木に背を預け、春独特の白けた空を見上げているロックオン・ストラトスに、アレルヤは声をかけた。春といっても経済特区日本には梅雨という時期があるらしく、それに差し掛かりかけた空は湿度が高い為に空気中の水分が多く、晴れていても空は青くないのだ。
アレルヤの呼び掛けに答えるように、ロックオンがアレルヤの方に視線をくれる。よお、と声をかけられて、ロックオンの隣の芝生を片手でぽんぽんと叩かれる。ここへ座れ、という意味だ。例えば刹那やティエリアなら子供扱いするな、と憤慨するのだろうが、呼ばれたアレルヤは何を思うでもなく指定された場所に腰を下ろす。

「お、流石アレルヤだなぁ」

「何がです?」

ロックオンの言葉に疑問を持ったアレルヤがそう返すが、ロックオンは「CBに入って一番に学んだのは素直さの有り難みなんだよ、」とだけ返してきた。よく分からなくて首を傾げるアレルヤに、ロックオンが苦笑する。
目の前に開けた広場には、真っ青な芝生が広がっていた。

「それはそうと、姫さんはどうしたんだ?別行動なんて珍しい。」

そう言って、辺りに人影を探すようにロックオンが視線を巡らせる。姫さん、とはティエリアのことを指すらしいが、それはティエリアの容姿についてというよりアレルヤのティエリアへの態度からきているのだと、前に聞いたのをアレルヤは思い出した。

「今はいませんよ。」

「そうなのか?お前達の邪魔しないように気使ってたんだがな、」

取り越し苦労か、とロックオンが言う。今回の地上待機はアレルヤとティエリア、そしてロックオンという珍しい取り合わせだ。気を使わせてしまったかと思ってアレルヤが謝れば、ロックオンは気にするな、といつもの軽い調子で笑った。

「でも、刹那がいなくて物足りないんでしょう?」

「まぁねぇ、こんな暖かいんだし、あいつを抱き枕にして昼寝とか、したいかな、」

「それ刹那が聞いたら怒りますよ、きっと。」

そう言ってやれば、同感だ。とロックオンが笑う。
背を預けた太い幹の感触はひんやりとしていて、それなのに生命に溢れているようで温かい。
木陰にそよぐ静かな風に、アレルヤは目を細めた。

「でも、お前だって眠くならないか?」

「それは…なりますね。じゃあ僕はティエリアに膝枕でも頼んでみようかな。」

そう言って悪戯にロックオンの方を見てみれば、ロックオンは小さく吹き出す。

「そりゃ、俺より命がけだな。」

至極おかしそうにするロックオンに、そうですね、と返す。でも春だから良いんじゃないでしょうか?と言ってみれば、凄い頭沸いてる会話だなぁ、と笑うロックオンの空色の瞳とぶつかった。

「まぁ、春ですからね。あのティエリアでさえ、ちょっと楽しそうにしてたんですよ。」

「ティエリアが?」

「ええ。タンポポの綿毛、あるでしょう?あれ吹いて飛ばす遊び教えてみたら凄い興味がわいたみたいで、今から飛ばすから、飛んできたらキャッチして見せてくれ、って言うんですよ。」

ちょっと難しそうです、と言えば、楽しそうで何よりだよ。とロックオンは言った。真っ白な綿毛が空一杯に浮かんでるの想像したら、それだけで幸せになれそうだ、とも。

あと何度春が巡れば、この日が優しい思い出に変わるかなんて、この時はまだ知らなかったけれど。











春風の中で会いましょう

(あの日、当たり前みたいに笑った貴方が僕らにとってどれ程尊い人だったか、失ってから気付いたなんて言えば、貴方はまた笑いますか?――ねぇ、ロックオン、)


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